呼吸数とパルスオキシメータ

このページでは、パルスオキシメーターと呼吸数の関係性について詳しく解説しております。

パルスオキシメータでは血中酸素飽和度(SpO2)と脈拍数の測定をすることができます。
一方で、現在その2種類のバイタルサインに加え、呼吸数を測定できるようなパルスオキシメータも発売されております。
本ページでは呼吸数測定をする意義について解説いたします。

呼吸数はどのような意味があるの?

呼吸数は1分間にどれだけ呼吸(吸って吐いてを1 回として)をしているかの数値です。
通常は12~20 回/分ですが、呼吸数は意識的に変化させることができます。また、労作により呼吸数は増加し、情動の変化(緊張やリラックス)によっても、呼吸数は変動します。眠っているときには呼吸数は減ります。
亡くなることを「息を引き取る」と表現します。眠るように亡くなるときは呼吸数は静かに減っていき、それに併せて心拍数も徐々に減り、最終的には心臓が止まることで息を引き取ります。
呼吸数だけであれば、その数値に特定の意味を見出すことは難しいですが、その時の状態や変化の状態と組み合わせることで、多様な意味を持ちます。

多様な意味を持つ呼吸数
頻呼吸と徐呼吸

古くて新しい呼吸数測定

医療者が病棟で入院患者さんをルーティンで測る体温や血圧などをバイタルサインといいます。基本的なバイタルサインは血圧、脈拍数、体温、呼吸数です。血圧、体温は100 ~ 200 年前には専用測定器が発明されていましたが、脈拍数と呼吸数は医療者が時計で時間を測って、1 分間の脈拍や呼吸の数を数えて測定していました。

1977 年、コニカミノルタの指先で測れるパルスオキシメータ発明で、バイタルサイン測定の転換が始まりました。
パルスオキシメータによって、脈拍数と呼吸によって取り込まれた血液中の酸素量(血中酸素飽和度= SpO2)が瞬時に測れるようになりました。

呼吸機能に問題があると血中酸素飽和度(SpO2)が下がり、過呼吸では血中酸素飽和度(SpO2)が上がることで、容態の悪化を的確に把握できる革新的な機器でした。
血中酸素飽和度(SpO2)は4 つの基本バイタルに加えて第5 のバイタルと称されます。その簡便性から血中酸素飽和度(SpO2)は呼吸状態の確認に代用されるようになってきました。パルスオキシメータで血中酸素飽和度(SpO2)だけでなく、それまで指診であった脈拍数も同時に測れるようになりました。機器で測定が可能な血圧、脈拍数、体温、血中酸素飽和度(SpO2)はどんどん記録されるようになる一方で、呼吸数は測らない、目視で数えていても記録しないという状況になりました。
近年、呼吸数測定の重要性が改めて注目されています。呼吸数はベッドサイドで評価が可能ですが、30~60 秒間にわたって実際に観察計測する必要があり、最も測定されていないバイタルサインの1 つになっています。
このような背景から臨床現場では、血中酸素飽和度(SpO2)のように簡易に呼吸数が測定できないかという声が高まっています。

古くて新しい呼吸数測定

呼吸数の読み方について

成人の呼吸数の正常値は12 ~ 20 回/ 分ですが、それより呼吸数が上がっても必ずしも病的異常とは言えません。例えば、運動している時や不安を覚えた時には、頻呼吸となり得ます。頻呼吸を認めた時に、その背景に「本当に病的異常がないか」を考える必要があります。呼吸数が増加する状態を説明するためには、下記のような用語がありますが、その違いには注意が必要です。

 頻呼吸:呼吸数が20 回/ 分以上のことを示します。

 過呼吸:呼吸数が20 回/ 分以上であるが、換気は正常に保たれている状況を示します。

例えば、健常者が運動時に生じる頻呼吸は、運動の代謝に対する自然な代償として生じる頻呼吸であり、過呼吸と言えます。この時、換気量と反比例する動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は正常に保たれています。

 過換気:呼吸数が20 回/ 分以上であるが、代謝の負荷を超えて不適切に換気が増加する状態を示します。この時、換気量と反比例するPaCO2 は低下しています。

 過換気症候群:心肺疾患とは無関係で呼吸と換気の不釣り合いが原因で起こり、自然に軽快する過換気が断続的に発生する病状です。一般に、数分~ 1 時間程度続き、自然に軽快します。精神的なストレス、身体のストレス(疲労、睡眠不足)、自律神経失調などが原因とされ、パニック障害や不安神経症、うつ病などの精神科疾患には合併しやすいとされます。合併症状として重症の低酸素血症や過換気後の無呼吸が報告されていますが、通常はその合併を生じることなく、軽快します。医療者にとって重要な視点は、呼吸数と血中酸素飽和度(SpO2)を把握することで、心疾患や肺疾患などの悪化を代償するために頻呼吸が生じているのではないかと予測することです。頻呼吸を安易に過換気症候群と判断することは危険です。

病状悪化の前兆としての頻呼吸

病院で心停止された患者さんの記録を調査した研究では、心停止の6 ~ 8 時間前に70~ 90%のケースで前兆があったことが示されており、心停止した患者さんの70% はその8 時間前に呼吸器症状の増悪所見を呈していたとの報告があります1。現在、呼吸状態の評価に血中酸素飽和度(SpO2)が日常的に測定されています。しかし、血中酸素飽和度(SpO2)の測定は、非常に有用ながら、血中酸素飽和度(SpO2)の低下はある程度まで病状が悪化しなければ出現しがたいことに留意しなければなりません。

敗血症や心肺疾患などでは、病状の重症化が進行することで、末梢の組織循環不全や低酸素血症によって乳酸の産生が増加し、代謝性アシドーシス(乳酸アシドーシス 点A )が生じます。一方、代謝性アシドーシスの進行や低酸素血症の進行を抑制するために、呼吸数を増やして、換気量を増加させる代償機構が同時に働きます(代償性の呼吸性アルカローシス 点B 。つまり、「末梢の組織循環不全が生じると、呼吸数を増加させる」という生体防御反応が生じています。そして、呼吸数で代償できない程に病状が進行すると、SpO血中酸素飽和度(SpO2)の低下を伴うようになります 点C 。最終的には、組織循環不全による代謝性アシドーシスに加え、換気不全による高二酸化炭素血症によって呼吸性アシドーシス 点D を生じ、心停止に至ります。
下記の研究では、病状の悪化時には、血中酸素飽和度(SpO2)の低下よりも呼吸数の増加がより早期に認められていることが示されています※2。より早期に病状悪化の前兆をとらえ、ベッドサイドで評価できる指標として、呼吸数は注目されています。

※2. Lynn LA, Curry JP. Patterns of unexpected in-hospital deaths: a root cause analysis. Patient Saf Surg. 2011;5(1):3.

様態悪化から心停止に至るまでの呼吸数、脈拍数、SpO₂、PaCO₂の推移図

●アシドーシスとは
何らかの体の異常で、体内に酸が過剰に存在している状態がアシドーシスです。
●代謝性アシドーシス
代謝性アシドーシスは、代謝のバランスが崩れて血液が過剰に酸性に傾いている状態です。例えば、ひどい下痢が続いた場合には、消化管からの分泌物が再吸収されないで体外に排出されるため、HCO3- が失われてpH は下がり、代謝性アシドーシスとなります。
●呼吸性アシドーシス
呼吸性アシドーシスとは呼吸の障害によって二酸化炭素(CO2)が蓄積することで、血液が過剰に酸性に傾いている状態を指します。
血液中に酸素が不足するにつれて、眠気や昏迷や昏睡へと進行することがあります。呼吸が停止するか著しく阻害された場合には、昏迷や昏睡が急激に進みます。

呼吸数測定を活かす

(1)日々の観察での呼吸数とRapid Response System

近年の研究では、患者さんの66% は心停止の6 時間前に異常な症状や徴候を示しているにもかかわらず、医師はその25% しか認識できていないことが示されました※3。そこで、病状が重症化する前に徴候を検知し、介入することで予後を改善することができないかという考えが生まれました。
Rapid Response System(RRS)は、早期警戒スコアリングシステム(Early Warning Scoring System: EWSS)を用いて、ルーティンの観察を行い、危機的な状況にある患者さんを早期に見出し、適切な臨床能力、知識、経験を持った治療チームがいち早く対応するシステムです。RRS を院内で採用することで、集中治療室(ICU: Intensive Care Unit)外での死亡率を50%減少できることが報告されました※4。また、手術後死亡率の減少、状態悪化後のICU入室までの心停止の減少、入院患者さんの心停止頻度の減少などのRRS の有用性を示すエビデンスが構築されました※5,6,7。日本においてもRRS を採用する病院が増えています。
このRRS が適切に運用されるためには、危機的状況となっている患者さんを見出す精度の高いスコアリングシステムが必要となります。また、ルーティン評価が前提となるため、日常的に簡便に実践できる評価項目から構成される必要があります。様々なEWSSのスコアが検討されてきましたが、評価項目としての呼吸数は、EWSS 研究の88% で採用され、最も一般的な評価項目でした※7。一方、血中酸素飽和度(SpO2)、体温、収縮期血圧は71% の研究で採用されていました。つまり、多くの研究者が病状の悪化を把握するための簡便な方法として呼吸数を評価していると考えられます。EWSS として広く知られているNHS England, National Early Warning Score(NEWS)を下記に示します。呼吸数に割り振られたスコアからも呼吸数が重要視されていることがわかります。

※3. Franklin C, Mathew J. Developing strategies to prevent inhospital cardiac arrest: analyzing responses of physicians and nurses in the hours before the event. Crit Care Med. 1994;22(2):244-247.
※4. Buist MD, Moore GE, Bernard SA, Waxman BP, Anderson JN, Nguyen TV. Effects of a medical emergency team on reduction of incidence of and mortality from unexpected cardiac arrests in hospital: preliminary study. BMJ. 2002;324(7334):387-390.
※5. Bellomo R, Goldsmith D, Uchino S, et al. Prospective controlled trial of effect of medical emergency team on postoperative morbidity and mortality rates. Crit Care Med. 2004;32(4):916-921.
※6. Goldhill DR, Worthington L, Mulcahy A, Tarling M, Sumner A. The patient-at-risk team: identifying and managing seriously ill ward patients. Anaesthesia. 1999;54(9):853-860.
※7. DeVita MA, Braithwaite RS, Mahidhara R, et al. Use of medical emergency team responses to reduce hospital cardiopulmonary arrests. Qual Saf Health Care. 2004;13(4):251-254.

NEWSスコア表

(2)敗血症を疑った時に、測定すべき呼吸数

RRS とは別に、感染症を疑ったときには、その重症度を判定するために様々なスコアリングシステムが臨床応用されています。その中でも、敗血症の患者さんの死亡率を予測する上で、APACHE Ⅱscore やSOFA score が広く用いられています。しかし、いずれのスコアリングシステムも評価項目が多く、ベッドサイドでの評価は難しいという問題点があります。そこで、より迅速にベッドサイドで判定するためにquick SOFA(qSOFA)が考案されました※8。qSOFA は、呼吸数、血圧、意識状態で判定され、死亡率と関連があります※8
敗血症を疑う場合に、血圧計と呼吸数の測定のみで、迅速に判定が可能であり、どの程度の追加評価を行うべきかの判断に役立ちます。

※8. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.

quick SOFA

(3)肺炎を疑った時にはもちろん、呼吸数を測定

肺炎を疑った場合も、重症度を判定するために様々なスコアリングシステムが考案されています。Pneumonia Severity Index(PSI)は、市中肺炎の重症化リスクの判定にも用いられますが※9、項目が多く煩雑です。そこで、より簡便なスコアとして、CURB-65 が開発されました※10。このCURB-65 の評価項目には、呼吸数が含まれています。また、コロナ禍において普及した指標として、ROX index があります。ROX index は、ハイフローセラピーを行う患者さんにおいて、挿管リスクを判断するために考案されたスコアです※11。その有効性から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や敗血症の評価においても、有用性が報告されています※12,13
ROX index は、吸入酸素濃度、呼吸数、血中酸素飽和度(SpO2)のみから評価できる指標です。呼吸不全が高度である場合には、呼吸不全を代償するために呼吸数が増加します。
ROX index は、スコアに呼吸数増加による代償を反映させることで、より正確な予測を可能としています。
※ ROX Index<4.88 で挿管リスクが高い

ROX index

※9. Fine MJ, Auble TE, Yealy DM, et al. A prediction rule to identify low-risk patients with communityacquired pneumonia. N Engl J Med. 1997;336(4):243-250.
※10. Lim WS, van der Eerden MM, Laing R, et al. Defining community acquired pneumonia severity on presentation to hospital: an international derivation and validation study. Thorax. 2003;58(5):377-382.
※11. Roca O, Caralt B, Messika J, et al. An Index Combining Respiratory Rate and Oxygenation to Predict Outcome of Nasal High-Flow Therapy. Am J Respir Crit Care Med. 2019;199(11):1368-1376.
※12. Lee CU, Jo YH, Lee JH, et al. The index of oxygenation to respiratory rate as a prognostic factor for mortality in Sepsis. Am J Emerg Med. 2021;45:426-432.
※13. Vedovati MC, Barbieri G, Urbini C, et al. Clinical prediction models in hospitalized patients with COVID-19: A multicenter cohort study. Respir Med. 2022;202:106954.

(4)重要視される呼吸数

上記のようにスコアリングシステムにおいて、呼吸数は非常に重要視されています。呼吸数には、大きな臨床的意義があり、診療の方向性を決定する上での重要な指標となります。

疑い疾患と各種スコアリングシステムの活用方法概念図
各スコアリングシステムにおける使用バイタルサインパラメータ

最後に
~呼吸数と血中酸素飽和度(SpO2)を同時測定する意義~

呼吸数の意味、そして、呼吸数を測定することで、病態悪化を早期にとらえることができる可能性を今回まとめました。
また、呼吸数の測定が、様々なスコアリングシステムに採用され、多くの病態において、臨床応用されていることを示しました。ただし、呼吸数の測定の問題は、不安や緊張といった情動による影響を受けうることです。
一方、血中酸素飽和度(SpO2)は、不安や緊張といった情動の影響は受けがたいと考えられます。例えば、呼吸困難を訴える頻呼吸の患者さんにおいて、頻呼吸のみの場合は、精神的な影響の可能性もあり得ます。しかし、頻呼吸に血中酸素飽和度(SpO2)低下を伴っている場合には、決して精神的影響だけとは考えられません。
血中酸素飽和度(SpO2)と呼吸数を同時に測定することで、呼吸数と血中酸素飽和度(SpO2)の欠点を補い合い、より迅速かつ正確な病態把握を実践することができると考えます。