パルスオキシメータと睡眠時無呼吸症候群(SAS)

このページでは、パルスオキシメーターと睡眠時無呼吸症候群(SAS)について解説しているページです。SASと血中酸素飽和度(SpO2)の関連や検査・治療の流れを解説しています。

はじめに

寝ている間に呼吸が頻繁に止まり、日中に眠気が襲う病気が「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。​
このSASが一般から注目を集めるようになったのが、2003年2月の山陽新幹線で発生した運転手の居眠り運転事故でした。​
東京行の新幹線が岡山駅の所定の停車位置より約100m手前で止まり、3両ほどがホームからはみ出したままになりました。車掌が運転席に駆けつけると、運転士は腰かけたまま眠っており、運転士は停車後も車掌に起こされるまで眠り続けていました。​
この運転手は体重が100kgを超える肥満タイプであり、「5~6年前から睡眠中に何度も目が覚める」と周囲に話していました。以来、早期発見・治療に向けた活動が交通・物流業界を中心に急速に進みました。

それから20年が経過し、現在では毎年多くの職業運転手が鉄道・運輸業界でSAS検診を受け、SAS治療を受けている方々が約50万人に至っています。​
その中からSASが事故の原因であるというだけはなく、各種疾患の悪化リスク要因であるという事も明らかなっており、各種疾患の予防のためのSAS早期発見が求められています。

SASとは?

OSASが起こる要因については、軟口蓋や舌根の沈下による上気道の閉塞などが原因で睡眠中に何度も呼吸が止まり、日中の過度な眠気や集中力の低下を引き起こし、交通事故のリスクを大幅に増加させることはよく知られています。

国土交通省 SAS対応マニュアル「「睡眠時無呼吸症候群」に注意しましょう!」より引用

SASとは、睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)が1時間に5回以上、または7時間に30回以上繰り返される病気です。

閉塞性(OSAS)と中枢性(CSAS)がありますが、肥満や加齢等に伴う疾患が原因のSASは主にOSASになります。「SAS」と言う場合には主にOSASを指しています。

OSASが起こる要因については、軟口蓋や舌根の沈下による上気道の閉塞などが原因で睡眠中に何度も呼吸が止まり、日中の過度な眠気や集中力の低下を引き起こし、交通事故のリスクを大幅に増加させることはよく知られています。

SASは交通事故リスクを大きく引き上げます​

SAS患者さんの交通事故率は健常者の約7倍!
SASは、毎日の睡眠不足が身体に少しずつ蓄積し、日中の強い眠気が、居眠り運転による自動車事故や、労働災害を巻き起こします。平成16年度厚生労働省委託研究「睡眠時無呼吸症候群が労働安全に及ぼす影響にかかわる調査」によると、重症なSASの患者さんの重大事故発生頻度は13.9倍というデータがあります。​

また、交通事故に関する報告によると、SAS患者さんの交通事故率は健常者の約7倍であり、重症であるほど事故率も高まります。ある報告では、酩酊に近い飲酒状態の人より、重症なSASの患者さんの方が、ハンドル操作ミスが多かったとのデータが出ています。

SAS起因の交通事故は約7%!
また、海外の研究例によれば、眠気に由来する事故は全交通事故の少なくとも10%程度を占めると報告され、男性運転者の全交通事故のうち7%がSASに起因するという報告もあります※1

※1. Motor vehicle accidents and obstructive sleep apnea syndrome: A methodology to calculate the related burden of injuries, Chron Respir Dis. 2015 Nov;12(4):320-8

交通事故だけではないSASの怖さ​

SASの主な症状に、いびきや昼間の眠気、熟睡感がない、起床時の頭痛などがあります。十分に深い睡眠がとれていないため、日中の仕事や勉強に集中できず、勤労意欲や記憶力の低下が起こります。​
また、集中力の低下やSAS特有の眠気は、勤労中の作業ミスや労働災害を起こす危険もあります。​
さらに、SASはメタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧や虚血性心疾患などの内臓の病気や、うつ・認知症などとも深く関わっていることも知られています。

SASによるパフォーマンスの低下、病気の合併症、事故

SASになりやすい方の特徴

SASは肥満の方だけの病気ではありません。
以下のような場合もSASを発症する可能性があります。

SASは肥満の方だけの病気ではありません。
SASになりやすい方の特徴

顎が小さく
細い人

SASになりやすい方の特徴

下顎が
引っ込んでいる人

SASになりやすい方の特徴

舌が大きい人

SASになりやすい方の特徴

閉経後の女性

日本でSASの患者さんはどれくらいいるの?

日本では、成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられると言われています。男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加します。日本人のSAS潜在患者数は300~900万人に達すると推計されていますが、検査を受けて治療を受けている方は50万人程度といわれています※2

SASは本人も病気と気付かないで生活しているケースが多いため、この病気を理解し、早く見つけ出して治療すれば、劇的に生活の質を向上させることが出来ます。

本人が自覚していないのに、ご家族やまわりの人から、いびきがひどい、息が止まっていると言われて初めて気が付く。これは危険ないびきで、昼間に異常な眠さを感じる場合は、SASではないかと疑ってみることが必要です。

※2. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020

“今”必要とされるSAS検診

900万人の潜在患者がいるかもしれないSASですが、まだその一部(50万人)しか検査・治療に結び付いていません。
明日にでも事故を起こすかもしれない、日々健康が虫食まれているかもしれないという状況で生活をされている方が非常に多くいるのが現状です。
この病気を理解し、早く見つけ出して治療すれば、劇的に生活の質を向上させることが出来ます。
SASは特に本人が病気と気付かないで生活しているケースが多く、ご家族やまわりの人から、「いびきがひどい」、「息が止まっている」と言われて初めて気が付くことが一般的です。SASと自覚症状は一致しないと言われています。
本人の自覚症状の有無にかかわらず、客観的にSASを判定できるSAS検診が最も信頼性の高い早期発見法です。

あなた・あなたのご家族は900万人の隠れた一人かも知れません。SAS検診の受診を一度検討してみてください。

SASの検査と治療の流れ

SASは夜間睡眠中の病気です。睡眠中の患者さんの状態をしっかり検査、診断することが治療への第一歩となります。

睡眠中の呼吸に病気ですが、睡眠科(睡眠クリニック)や呼吸器内科・循環器内科・耳鼻咽喉科など、原因や様態を踏まえた診療科が対応しますが、まずはかかりつけ医にご相談いただくのも一つの方法です。
SASの確定診断(精密検査)は、PSG(ポリソムノグラフィ)という多項目のセンサーを体に取り付けて、2晩程度の入院検査で行われます。但し、時間や費用がかかりますので、いきなりPSGを行うことはなく、まずはSASである可能性を確認したうえで、必要と判断された場合に行われます。

このSASである可能性を確認する事前検査が、SASスクリーニング(SAS検診)です。
1晩のパルスオキシメータによる「SASスクリーニング」と、パルスオキシメータと呼吸機能確認を同時に行う「簡易検査」の、2つのタイプがあります。
パルスオキシメータにSASスクリーニングは在宅で簡易に、かつ正確にSASの可能性を判定でき、運輸事業者などの職業ドライバーを中心に広く実施されています。
簡易検査は、中等度以上のSASに対して、治療を確定できる為、呼吸器内科・循環器内科などで多く実施されています。

SASの検査と治療の流れ

SASスクリーニングから治療まで

SASスクリーニング
SASスクリーニングを受診すると、SASの疑いをおおよそ以下のように判定されます。

SASスクリーニング

「異常なし」「軽度の兆候あり」は、即時の治療は必要とされません。
1年後あるいは3~5年後の再検査が推奨されます。

「SASの疑いあり」「重度のSASの疑いあり」に判定されると、精密検査の受診が勧奨されます。特に重度の場合には、日常生活に大きな支障をきたす危険がありますので、即時の受診が必要となります。
この場合、精密検査受診のための紹介状も発行されることが一般的です。

SAS精密検査
SASスクリーニング結果をもって専門機関(睡眠検査センターなど)を受診します。ここで問診等を行い、入院検査日を決定します。
検査当日(夜)は、検査技師の監視下のもとPSG(ポリソムノグラフィ)による全睡眠時間の検査を行います。

SAS治療の基本はCPAP
精密検査の結果、SASであることが確定した場合、その症状に応じた治療を医療機関と決定します。
SAS治療の基本はCPAP(シーパップ)となります。これは小型の人工呼吸器の一種で、鼻口に装着したマスクから弱い空気を送り込むことで、睡眠中の気道の閉塞を抑えるものです。
CPAPを導入することで睡眠中の呼吸停止が無くなり、熟睡感や起きた時の爽快感を得られるなど、速やかな効果を実感できるという声も多く聞かれます。(※実感には個人差があります)

医療機関での受信

CPAP治療とはどのようなものですか?

CPAP治療(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)とは、専用の装置を使って、寝ている間に鼻や口に装着したマスクを通して空気を送り込みます。この空気の圧力で、喉や気道がしっかりと開いた状態を保ち、呼吸が止まらないようにサポートします。
CPAP治療には以下のようなメリットがあります。

  • 気道が開くことで、無呼吸やいびきが減り、深い睡眠が得られるようになります。
  • 質の良い睡眠がとれるので、昼間の眠気や疲れが軽減され、スッキリと過ごせます。
  • 無呼吸を改善することで、高血圧や心臓病、糖尿病などのリスクを下げる効果も期待できます。

また、CPAP治療はマスクをつけて寝るだけです。マスクを鼻や口に装着し、専用装置から空気が送り込まれます。装置の音も非常に静かで、気持ちよく使っていただけます。CPAP治療は継続が鍵です。毎晩使い続けることで、徐々に効果が実感できるようになります。

CPAPを初めて使うときは少し違和感があるかもしれませんが、ほとんどの方は数日から数週間で慣れてきます。
また空気が直接入ってくるため、乾燥を感じることもありますが、加湿器を使ったり、装置に調整機能を加えることで快適に使えます。