働き方改革の目的は、企業の生産性を高めるとともに、働ける全ての人が活躍できる世の中を築くことです。少子高齢化を背景に労働力が減少していく日本で、企業の活動を維持するために有効とされています。
働き方改革を後押しする目的で、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されました。「関連法」とは8本の労働関係の法律を一括にまとめた総称です。詳細は以下関連記事をご覧ください。
企業の働き方改革に対する取り組みは働き方改革関連法施行前から始められており、日銀の資料によれば、2018年時点で40%近い企業が働き方改革に取り組んでいるという調査結果が出ています。
出典:日本銀行「働き方改革と企業の取り組み」内訳については企業規模や業種による差があり、企業規模に関しては、従業員数1,000人以上の企業の取り組み割合が60%を超えていた反面、従業員数100人未満の企業の取り組み割合は20%に満たない調査結果が出ています。
働き方改革の取り組み内容としては「長時間労働の是正」や「業務改善(生産性の向上)」を目的としたものが多く、上位5つは、以下の内容となっています。
働き方改革に取り組んだ企業の40%が何らかの効果が得られたと回答しており、働き方改革による変化として労働時間と休暇取得を挙げる企業の割合が多い調査結果が出ています。
反面、働き方改革を定着させるためには、「周囲からの理解を得た上で、会社全体で働き方を変えていく」必要があり、それに対する懸念も指摘されています。
働き方改革を巡る課題として挙げられた上位5つは、以下の内容となっています。
2018年時点で働き方改革に取り組む企業が4割弱でしたが、働き方改革関連法施行後の調査ではさらにその割合が増加しています。NTTデータ研究所の調査によれば、2社に1社が働き方改革に取り組み、そのうち、従業員数100人未満の企業の取り組み割合も30%に増加しています。これは2018年調査から12.8ポイントの大幅な増加です。
働き方改革に前向きな企業の割合を見てみると、2016年のHR総研の調査で4社に3社が「すでに取り組んでいる」もしくは「今後取り組む予定である」と回答、2018年の帝国データバンクの調査でも63%の企業が前向きな姿勢を示しています。調査により数値のばらつきはあるものの、過半数の企業が働き方改革の取り組みに前向きとなっています。
したがって、今後も働き方改革に取り組む企業の数が増加し、近い将来「働き方改革に対応していることが当たり前」な世の中になることが想定されます。まだ働き方改革に取り組んでいない企業においては、同業他社に遅れをとらないためにも早急に検討を開始する必要があると言えるでしょう。
企業が「働き方改革」に関して実施した取り組みと効果について解説していきます。
帝国データバンクが実施した調査によると、「労務・人事面」「業務改善(生産性向上)面」「経営・事業面」に関する働き方改革でもっとも効果があったとする取り組みは、以下のようになっています。
「長時間労働の是正」に関しては、働き方改革関連法の中で「残業時間の上限」が設定されたため、各企業で早い段階から改善に取り組まれています。
「業務の合理化や効率化のための IT・機器・システムの導入」に関しても、「時間外労働等改善助成金」などの業務効率化を実現するための設備や機器類の導入に対する補助制度を活用した取り組みが進んでいたことが伺えます。
なお、今後実施予定として挙げられている取り組みの上位3つは、以下の内容となっています。
長時間労働の是正や有給休暇の取得推進を始め、企業が取り組みを進める働き方改革ですが、従業員はどのように感じているのでしょうか。
日経キャリアNETが会員企業の従業員向けに実施したアンケート調査したアンケート調査によると、働き方改革関連法に対する理解度に関しては、「残業時間の上限規制」「有給休暇の取得義務化」「同一労働同一賃金」のようなメディア等で取り上げられることの多いテーマに対する理解度は高いものの、それ以外のテーマに対しては理解度が低い実態があります。
働き方改革関連法の施行が自分自身の働き方に対してどのように影響するかの調査に関しては、いずれのテーマでも「働き方は変わらない」とする答えが半数以上を占める結果となっています。働き方改革への期待はあるものの効果を実感するまでには至っていない労働者が多いことが伺えます。
エン・ジャパンが女性を対象にしたアンケート調査でも、職場が働き方改革に取り組んでいると回答した人が44%いて、そのうちの45%が「働き方改革のメリットは感じていない」と回答しているなど、働き方改革の恩恵を実感できている人はまだ大勢にはなっていないようです。
働き方改革関連法の施行を受けて、世の中の企業が「有給休暇の取得推進」や「長時間労働の是正」を中心とした施策を導入しています。
しかし、施策を導入するだけでは、有給休暇の取得推進や長時間労働の是正は実現されません。実現させるためには「生産性向上」への取り組みが必要となります。働き方改革をテーマに継続的に調査を行っているBIGLOBEの調査結果を見てみましょう。
たとえば、有給休暇の取得推進に関して「自分が休むと同僚に迷惑をかける」という理由で有給休暇の取得が進まないと感じている労働者が多くなっています。
また長時間労働の是正に関しては、「仕事量と人員のバランスがあっていない」という理由で、長時間労働の是正が進まないと感じている労働者が多くなっています。
出典:BIGLOBE 「働き方に関する意識調査2019」第2弾企業が目先の「有給休暇の取得推進」や「長時間労働の是正」を進めても、やるべき仕事の量が変わらなければ、負担感が増すだけという側面が見えてきました。その結果、エン・ジャパンの調査では働き方改革により生産性が上がったのは、27%。「生産性は上がっていない」が28%と、わずかに上回る、という結果になっています。
働き方改革関連法が施行されて一年が経過しようとする中、企業の働き方改革に取り組む意識は高まりつつあるものの、実効性を高める生産性向上への取り組みが進んでいない実態が存在します。
働き方改革は労働者からの関心も高く、企業にとって今後取り組みを強化しなければならない課題となっています。
中小企業での働き方改革や職場環境改善の取り組み事例を「いいじかん設計 動画カタログ」でご紹介中です。こちらもあわせてご覧ください。
文責:大庭 真一郎(経営コンサルタント)
大庭経営労務相談所 所長
東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。
「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。中小企業診断士、社会保険労務士。
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