有給休暇とは、給与支給の対象となる休暇のことを指します。企業は有給休暇を付与しなければならないことが労働基準法によって定められており、後述する一定の条件を満たした従業員に対して、正社員はもちろん、パートやアルバイトなど雇用形態にかかわらず適用されます。
そもそも、日本の有給休暇取得率は海外諸国に比べて低く、大手旅行会社の世界19ヵ国を対象にした有給休暇・国際比較調査では2016年から2019年までの4年連続で最下位となっています。また、厚生労働省がまとめた「令和2年就労条件総合調査の概況」によると、日本における2019年の年次有給休暇取得率は56.3%であったことが分かりました。年次有給休暇の取得率は年々上がっていますが、さらに就労条件を改善するために2019年4月から年次有給休暇義務化がスタートしています。
「働き方改革関連法」の一環として、年次有給休暇取得率を高めるために、企業が従業員に対して一定の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。その「年次有給休暇義務化」の詳細について詳しく解説します。
年次有給休暇義務化の対象となるのは、「年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員」に限られます。年次有給休暇は正社員やパート、アルバイトなど雇用形態にかかわらず付与されると紹介しましたが、10日以上の年次有給休暇が付与されるのは以下の条件を満たした場合に限られます。
上記のとおり、フルタイム勤務であれば6カ月以上かつ8割以上の勤務日数で年次有給休暇の付与対象となりますが、週2日以下の場合は10日付与となることはないため、年次有給休暇義務化の対象外となります。
対象となる従業員に対しては、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日間の年次有給休暇を取得させなければなりません。ここで重要なのは、入社日から1年以内ではなく「年次有給休暇を付与した日」が基準となっていることです。例えば4月1日に入社した新入社員の場合は、10日間の年次有給休暇が付与される6ヶ月後、すなわち10月1日が基準日となるため注意しましょう。
年次有給休暇の取得は、従業員から使用者(従業員を雇い入れている事業主)へ意向を申し出ることが原則となります。ただし、従業員から申し出た年次有給休暇取得日が業務に支障が出ると判断した場合、使用者は取得時季を変更でき、これを時季変更権とよびます(労働基準法第39条に明記された権利)。
なお、従業員ごとの年次有給休暇の取得データは「年次有給休暇管理簿」で管理し、企業は3年間保存することが義務づけられています。
年次有給休暇義務化に違反し、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合、企業に対して従業員一人当たり30万円以下の罰金が科されることとなります。仮に10人の従業員が所定の年次有給休暇を取得していなかった場合、最大300万円の罰金が課される可能性があるのです。
年次有給休暇義務化は従業員だけではなく、企業にとっても様々なメリットがある一方、デメリットがあることも事実です。それぞれのポイントに分けて詳しく解説します。
年次有給休暇の取得によって従業員の休日が増えると、ゆっくりと休息できる時間が確保できます。自分(家族も含め)のために使える時間が確保できるようになると、将来を見据えたキャリアプランにも意識が向き、休日の時間を活用して資格取得やスキルアップを図ることもできるでしょう。そのように将来設計を考えられるようになると、日々の仕事へのモチベーションも高まると考えられます。また、時間のゆとりは一つの仕事に対しても、多角的に考え、アイデアを生み出す可能性を高めることにもつながります。
こうした環境において従業員が高いモチベーションで仕事に臨めるようになると、結果として従業員個々の能力をいかんなく発揮する可能性も高まり、生産性の向上につながると考えられます。
長時間労働が蔓延している職場や、有給休暇が取得しにくい雰囲気のある職場では、従業員が十分な休息を得られず体調を崩すことも考えられます。劣悪な労働環境のなかでは退職する従業員も多く、そうなれば、さらに人手不足に拍車がかかる企業も出てくるでしょう。
しかし、一定の有給休暇が取得できれば、従業員の肉体的・精神的な健康維持につながり、退職リスクを抑えることもできます。また、それが組織全体としての労働環境を改善していくきっかけになるかもしれません。
有給休暇が義務化されたとしても、企業としての仕事が減るわけではありません。結果として有給休暇が増えた分、残業や休日出勤としてしわ寄せが発生することも考えられるでしょう。残業や休日出勤は通常業務の時間帯よりも割増での賃金を支払わなければならないため、人件費が増加する懸念があります。
有給休暇の義務化に当たっては、「年次有給休暇管理簿」で従業員ごとの有給休暇取得日数を管理しなければなりません。単に有給休暇取得日を記録するだけではなく、全ての従業員が所定の有給休暇日数を取得できているか確認し、もし所定の日数に届かない可能性がある場合には、従業員へ通知し有給休暇を取得してもらう必要があります。そのため、これまでの有給休暇管理よりも複雑化し、手間もかかります。
有給休暇義務化に対応するため、企業はどのような対策や行動をとるべきなのでしょうか。今回は3つのポイントに分けて紹介します。
就業規則の中に「有給休暇義務化の対象者は、年間5日以上の有給休暇取得を義務とする」旨の文言を追加するか、就業規則を変更する必要があります。同時に、有給休暇の取得方法および時季指定方法も定めておきましょう。
ただし、就業規則の変更や追加には法律的な専門知識が求められるため、慎重に対応しなければなりません。そこでおすすめしたいのが、コニカミノルタジャパンが提供する「クラウド社労士コモン」です。オンラインで手軽に人事や労務相談などが可能で、有給休暇義務化に関する課題解決に向けて総合的に支援します。
就業規則の整備が完了したら、対象となる従業員の有給休暇取得状況を把握しやすくするために「年次有給休暇管理簿」を作成しておきましょう。「年次有給休暇管理簿」は特に定められたフォーマットはないため、Excelのようなソフトでも作成可能です。
ただし、Excelによる管理を行う場合、ファイルの更新漏れや集計ミス、誤入力なども考えられます。このような問題をクリアし効率的に管理するためには、クラウド型勤怠管理システム「AKASHI」の導入が最適です。タイムカードや紙による申請は一切不要で、PCやスマートフォンから簡単な操作で勤怠打刻や有給休暇の取得申請が可能。部署やチームごと、個人ごとの有給休暇取得状況も一覧で確認できます。
従業員が有給休暇の取得を忘れることが多いと、年度末のような直前になって駆け込み取得が殺到する恐れがあります。このような事態を避けるためにも、計画的に取得できるよう、半期または四半期ごとに有給休暇の取得状況を確認しておきましょう。全体的に有給休暇の取得が進まない場合には、会社全体または部署ごとに有給休暇の一斉付与といったことを検討してみるのも一つの方法です。
エクスペディア・ジャパンが調査をした「有給休暇の国際比較調査」では、世界的に有給休暇の取得日数が例年と比べると2020年は減少する傾向にあったとしています。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、体調が少しでも優れないときには休みをとることが浸透してきた一方で、緊急時のために有給休暇は残しておきたいとする人も少なくないようです。
こうしたことを考えると、社内で有給休暇の申請をしやすい雰囲気を作っておくことも重要になります。例えば、厚生労働省が出している「有給休暇ハンドブック」では、アニバーサリー(メモリアル)休暇制度を設けて子どもの誕生日や結婚記念日、従業員本人の誕生部といったアニバーサリーに有給休暇を取得することを促進した事例を紹介しています。休日を効率的に活用して、心身ともに充実した時間として利用できるように企業文化を醸成していくことも大切な取り組みだと言えるでしょう。
計画的な有給休暇の取得は、従業員のモチベーション向上や健康維持につながります。労働環境が改善すると退職リスクも低減でき、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。有給休暇義務化によって企業がとるべき対策は多く、煩雑に感じられるかもしれません。今回紹介した「クラウド社労士コモン」や「AKASHI」などのツールをうまく活用しながら、全ての従業員が計画的に有給休暇を取得できるよう、それぞれの企業に合った適切な対策を講じることが重要です。
いいじかん設計 編集部
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