働き方改革関連法など、政府が「働き方改革」をすすめる背景には、少子高齢化が進み労働人口が減少する日本の将来予測があげられます。40年後には労働人口が4割減という予測もあり、「労働人口が減っても生産活動を維持するための生産性向上」と「労働参加率を高めるための雇用政策」の推進が求められているのです。
働き方の見直しを促すことを目的とした「働き方改革関連法」に関連して、企業にも様々な対応義務が生じています。「時間外労働(残業時間)の上限規制」もその一つで、大企業に関しては2019年4月より適用が開始されていますが、2020年4月からは中小企業にも残業規制が適用されます。
働き方改革関連法は2019年4月から順次施行されていますが、残業規制や有給休暇の取得義務など、中小企業でも影響が大きい内容が含まれています。経営余力が小さい中小企業に配慮し、中小企業には1年間の猶予が設けられています。
猶予が与えられる中小企業とは、中小企業基本法で定められた中小企業の定義に該当する企業のことです。
具体的には、資本金額(出資額)もしくは常時使用する労働者数に関する以下の要件のいずれかを満たす企業です。
または、
時間外労働の上限規制とは、従業員の残業に関して法的に上限時間が設定されるということです。
時間外労働(残業)とは、1日8時間または週40時間を超えた労働をさせることをいいます。これに対し、従来は以下の4つのルールが適用されていました。
①労使間で協定を締結し労働基準監督署に届出た場合は、協定で定めた時間の範囲内で時間外労働(残業)をさせることができる
②①の場合、時間外労働(残業)時間は、原則月45時間以内、年間360時間以内とすること
③全ての月の時間外労働(残業)時間を45時間以内に収めることが困難な場合は、①とは別に労使協定を締結して労働基準監督署に届出ることで、年間6回まで、月に45時間を超える時間外労働(残業)をさせることができる
④③を行う場合の上限時間はない
大企業は2019年4月から、中小企業では2020年4月から④の内容が変更となり、③に基づいて月45時間を超える時間外労働(残業)をさせる場合に、以下の3つの要件を全て満たすことが求められます。
時間外労働(残業)の上限規制は、事業の規模に関係なく全ての企業に適用されます。従業員数が少ないからという言い訳は通用しません。違反企業に対する罰則(6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)もあります。
NTTデータ経営研究所の調査によれば、2018年時点で大企業の60%以上が取り組んでいるのに対し、中小企業では20%に満たないなど、働き方改革への取り組みが遅れている現状が明らかになっています。
中小企業は経営資源に限りがあり、仕組みを変えることは容易ではないのですが、世の中全体の義務を守るという意味で、自社の実態を確認した上で必要な見直しを行うことが求められています。
時間外労働(残業)の上限規制ですが、一部の業務に関しては2024年3月31日まで適用が猶予されています。対象となっているのは、建設現場で働く業務、自動車運転業務、医師です。これらの業務に関しては、2024年4月1日以降も、通常とは異なる形で「時間外労働(残業時間)の上限規制」が適用されることになります。
さらに、新技術・新商品等の研究開発業務については期限なく上限規制が適用されず、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業については2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から通常とは異なる形で上限規制が適用されるという特例措置があります。
特例措置の内容に関しては、厚生労働省のページで説明されています。
企業が時間外労働(残業)の上限規制を遵守することで、労働者の残業時間が減ります。このことは、社会全体にとっては良いことなのですが、以下のような弊害を生み出すことも想定されています。
このような弊害が発生すると従業員の士気の低下を招き、人材流出や業務の質の低下などの事業リスクを生じさせてしまいます。
まず、労働時間を把握しましょう。勤怠管理の方法は社員が各自勤怠表に記入したり、タイムカードでの管理など様々ありますが、集計面や今後の働き方の多様化を考えるとWEBやクラウドを活用して管理できることが望ましいでしょう。クラウド型勤怠管理システム AKASHI では、出勤・退勤など勤怠に関する実績をWEBから申請することができます。PCだけでなく、スマートフォンからもアクセスができるので、会社に行かなくても申請ができ、実績集計や照会、分析も一元管理できるので、管理者側にもとても使いやすい仕様です。
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続いて、時間外労働(残業)の上限規制に対応するため、労働時間の削減の取り組みが必要ですが、労働時間を減らすだけだと、仕事量は変わらないのであちこちに無理が生じてしまいます。
そうならないためには、経営者や管理職者が現場の労働時間の実態を把握した上で、業務効率化に取り組み、生産性向上を実現させる必要があります。
業務効率化の取り組みでは、業務フローの中で無駄な作業はないか、工数をいかに削減するか、など「作業じかん」を削ることばかりに焦点を当ててしまいがちです。しかし、同じくらい大切なのは、そこで生まれた余白を新しい仕事を生む「創造じかん」や、さらには創造の質を高めるため、仕事の経験だけでは得られない幅広い視野を持つための「自分じかん」を充実させることではないでしょうか。
コニカミノルタジャパンではこうした働くじかんのとらえ方を「いいじかん設計」と定義し、様々な業務効率化に取り組み、そのノウハウをお客様にもご提案をしています。
少子高齢化による労働力減少は、人手不足などの形ですでに企業の経営課題として現れています。また、新型コロナウイルスの影響で世界経済が混乱し、企業をめぐる経営環境の悪化が予想されます。
働き方改革関連法による残業規制や有給取得義務に対して、「対応義務があるから」と目先の対応をするだけでなく、生き残りをかけて生産性向上を図る攻めの姿勢が企業には求められています。
文責:大庭 真一郎(経営コンサルタント)
大庭経営労務相談所 所長
東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。
「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。中小企業診断士、社会保険労務士。
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