世の中のトレンドワードとして定着している「働き方改革」。働き方改革を自社の経営に対してプラスになるように運用する企業の着地点は、労働生産性の向上にあります。
労働生産性とは、アウトプット(=労働による成果)をインプット(=労働時間や労働者数)で割った値のことで、労働の効率性を表す指標です。既存業務を効率化し、できた時間をアウトプットの増大にまわせば、労働生産性の向上が期待できます。
業務効率化を実現させるためには、仕事の仕組みの最適化に取り組む必要があります。仕事の仕組みの最適化に取り組むとは、それぞれの仕事の目的を明確にして、目的を達成するための効率的な取り組み方を精査したうえで仕事を行うことです。
そうしていくためには、「今ある業務は当然今後も必要な業務だ」「今ある業務遂行環境は変えられない」といった固定的な考え方を持ってはいけません。
しかし、これらは人の意識の問題でもあり、業務効率化を訴え続けるだけでは変わらない面もあるため、業務配分の見直しやさまざまなソリューションを活用した業務遂行環境の見直しといった業務改善に着手する必要があるのです。
業務改善を行うにあたっては、はじめに自社の労働生産性を悪化させている要因、すなわち業務効率が低い原因は何なのかを特定することです。原因は企業によって異なりますが、最終的には業務配分や業務遂行環境のいずれかに当てはまるはずです。
業務配分に関する要因としては、「特定の人しかこなすことのできない業務がたくさんある」「現状では必要のない業務を多く抱えている」「業務の役割分担に偏りがある」などの理由で業務効率が低くなっていることが考えられます。
業務遂行環境に関する要因としては、「無駄な会議が多い」「コミュニケーションや情報共有が機能していない」などの理由があります。
現状認識ができ自社の業務効率を悪化させている要因が特定できたら、改善を進めていくための計画を立てましょう。
労働生産性を悪化させている要因は、長年の積み重ねの中で習慣化されたものなので、それを変えることは容易ではありません。自社の環境や風土に適した方法を考えたうえで、取り組み方を明らかにした内容を可視化して改善計画を作成し、社内全体で共有する必要があります。
改善計画を作成した後は、具体的な施策で業務改善を実行していきましょう。
業務配分を見直すアイデアとしては、「業務の棚卸を行う」ことや「仕事の属人化を解消する」ことなどが考えられます。
現在ある業務を体系化し、業務ごとのフロー(=進め方)と係っている人間を明らかにしたうえで、今後も必要な業務なのか、必要な業務だったとしても止められる部分はないのか、止められる部分がなかったとしても進め方を変えることはできないのか、という視点で図1図2のように精査しましょう。
必要に応じて業務内容の見直しを行うことで、本当に必要な業務だけをベストな役割分担のもとで行う体制を築くことができ、結果的に業務効率化が進みます。
ひとつの業務を複数の人間がこなせる状況を作ることで、業務の効率化が進みます(図3)。複数のタスクから構成された業務プロセスの時間ロスが削減されるからです。
業務遂行環境を見直すアイデアとしては、「テレワーク」や「フリーアドレス」、「ペーパーレス」の実施、「情報共有ツール」の活用などが考えられます。
自宅やレンタルオフィスなど会社から離れた場所で業務を遂行する環境を構築することで、業務効率化が進みます。今まで社内の会議室に全員が集まって会議を行っていたのが、それぞれの人が今いる場所からTeamsやZoomのようなビデオ通話ができるツールやテレビ会議システムなどを利用することで、会議場への移動が不要になり、労働負荷を軽減することができます。
社員が個々に机を持たず、働く場所を選べるオフィススタイルを取り入れて部門ごとの垣根をなくすことで、社員間のコミュニケーションが活発になり、横断的な業務が格段に行えます。
紙媒体をデジタル保管に移行することは、管理や共有が容易になるメリットがあります。さらに、オフィスで紙を保管していたスペースを減らすことができ、社員が働きやすい快適な環境にもつながります。
Teamsに代表されるビジネスチャットツールやLINE WORKS(ラインワークス)に代表される社内SNSツールを活用することで、スムーズかつ手軽に情報共有が行えるようになります。
スケジュールやファイルなどを共有できる機能もあるので、メンバー全員が業務の状況を正確に把握したうえで、迅速に業務を遂行することができるようになり効率化が進みます。
会議室の空予約を防止し、効率的な会議室運用が可能になる会議室予約システムがあります。施設予約管理システム FaciRizaでは、グループウェアと連携させることで人のスケジュールとも紐づけられるので、更に効率性が高めることができます。
改善施策を実行した後は、定期的に効果を測定し、さらなる改善を図る必要があります。改善施策を実行することで業務の効率化に関する本質的な部分が明らかになり、より適した施策を見出せることがあるからです。
思い描いたように施策を実行できていない結果が生じた場合も、現状の結果がどのように生まれたのかを検証することで、実行を阻害した原因を突き止め、排除することが可能になります。
業務効率化に取り組むことで労働生産性が高まり、働き方改革の実現や企業業績向上に対する期待へとつながっていきます。
さらに、業務の効率化に取り組む過程で組織の中でさまざまな創意工夫が生み出され、それにより社員ひとりひとりの意識が変化し、企業がイノベーションを実現しやすい環境が作り出されます。
こうすることが、労働力人口の減少やグローバルな市場での競争激化といった環境変化の中で生き残るための基盤形成へとつながっていくのです。
文責:大庭 真一郎(経営コンサルタント)
大庭経営労務相談所 所長
東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。中小企業診断士、社会保険労務士。
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