公開日 2023.07.26
バリアブル印刷とは?
活用事例やメリット・デメリットを解説
もともと、印刷という技術は同じ情報を大量に流通させることに大きな価値がありました。しかし、情報の流通がデジタル化されている昨今では、必ずしもすべての人に同じ情報を届けるのではなく、個々のニーズに対応することも求められています。このような個々のニーズに対応することは印刷業界において競争力を向上させるために非常に重要な取り組みとなります。
本コラムでは、このような対応を可能にするバリアブル印刷に関して、活用方法やメリット・デメリットのほか、その背景にある仕組みを解説していきます。
バリアブル印刷とは
バリアブル印刷とは、その名の通り「可変」に対応した印刷手法のことを指します。
具体的には、データを基に印刷する情報を変化させながら行う印刷手法のことです。この手法により、個々にパーソナライズされた情報を印刷物で提供することが可能になります。
身近な例では、ギフトカードや商品券が挙げられます。これらは、見た目は同じに見えますが、印字されているシリアルナンバーは同じものは一つもなく、すべて固有の番号や文字列が印字されています。このようにバリアブル印刷を用いることでユニークな文字列や記号を印刷することができます。
バリアブル印刷は、少品種大量生産を得意とする一般的なオフセット印刷とは異なり、多品種小ロットのデジタル印刷に適しています。また、製版や刷版といった工程がないため、印字データと出力機さえあれば比較的短期間で印刷が完了するといった特徴もあります。
そのため、全体のデザインやキャッチコピーなどの非可変部分はオフセット印刷で大量に印刷しておき、可変部分は後からデジタル印刷で追い刷りをするというプロセスにすることで、可変印刷が施された印刷物を大量に生産することもできます。
バリアブル印刷の活用方法と例
それでは、実際にバリアブル印刷が活用されているケースを見ていきましょう。
宛名印刷
宛名印刷は、バリアブル印刷の代表的な使用例です。
封書の宛名台紙やDMには、その印刷物を届ける方の個人情報(氏名や住所など)を印字する必要があります。バリアブル印刷では、顧客リストを基に一通ずつ異なった内容の印字をすることができます。
DM |
封筒やはがきを用いたDMでは、届け先の方の氏名や住所はもちろんのこと、ユーザーの使用頻度や金額に合わせたキャンペーンクーポンの印字やQRコードなども可変印刷をすることができます。QRコードと個人情報を紐づけることで、どのユーザーがDMに興味を持ったかなども図ることが可能です。 |
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年賀状 |
企業から得意先や取引先に送る年賀状も、届け先の会社名や役職、氏名などを可変にする必要があります。また、差出人である自社従業員の氏名も可変印刷することで、取引先との良好な関係性構築にもつながります。こうした複数の可変印字もバリアブルで効率的に年賀状を作成することができます。 |
はがき |
オフィス移転の案内や招集通知など企業が公式に発表する情報は、デジタル化が進んだ昨今でもメールやWebサイトだけではなく、はがきに印刷して郵送するケースが多いものです。このような場合も、バリアブル印刷を用いて送り先などを個別に印刷します。 |
招待状 |
パーティーやカンファレンスなどの招待状も、同様に宛名や差出人をバリアブル印刷で個別のものにできるほか、招待客が実際に来場したかどうかを管理するバーコードやQRコードもバリアブル印刷で個別に印字することができます。 |
名刺印刷、社員証
バリアブル印刷の最大の特徴である「可変性」は、印字する内容の可変に留まりません。
専用のレイアウトソフト(バリアブルツール)を用いることで、印字する場所や大きさを可変にすることもできます。そのため、社名、部署、氏名などの同一情報を名刺や社員証といった異なる印刷媒体に異なるレイアウトで印字するような場合にもバリアブル印刷を活用することができます。
ナンバリング
チケットや商品券など、全く同じ内容のものが2部以上存在してはいけないという印刷物もあります。
そのような場合もバリアブル印刷の可変性が真価を発揮します。バリアブル印刷では宛名やバーコード、QRコードだけではなく、ユニークなナンバーを振ることも可能です。決まったルールに則って、数字を連続で印字することにより、販売経路ごとの販売数の確認やシリアル番号を付与することで商品の付加価値をあげることにも繋がります。
チケット・座席番号 |
映画や航空券などのチケットは、時間や座席番号の組み合わせによって、唯一無二のものとなっています。印字内容のマスターデータで個別の組み合わせを作り、バリアブル印刷でその組み合わせの通りに印刷することが求められます。 |
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商品券 |
商品券や金券も、大量に流通しているものではありますが、印字内容は1枚ずつ個別の印字内容になっている必要があります。かつては印字内容に重複や誤りがないかどうかを目視検品することが必要でしたが、バリアブル印刷を行う出力機によっては、マスターデータ通りの出力になっているかどうかを画像認識技術で自動判別することもできます。 |
バーコード・QRコード
キャンペーン告知やWebサイトへの誘導などで用いられるQRコードですが、昨今ではキャッシュレス決済や、物流現場での入出庫管理にも用いられるようになっています。QRコードには、同一の内容が埋め込まれたものだけではなく、個別の内容が埋め込まれたユニークコードもあります。バリアブル印刷は、主にユニークコードの印字に用いられます。
抽選券 |
抽選券に印字されたQRコードをスマホで読み取る仕組みのキャンペーンのような場合、QRコードに埋め込まれた内容は固有である必要があります。このようなQRコードを印刷する場合にもバリアブル印刷が用いられます。他にも抽選券には独自コードを振ったナンバリングの技術が使われています。 |
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セミナー |
セミナーや展示会の来場者を把握するためには、あらかじめ一人一人異なるバーコードが印字された招待状を送付しておき、来場の際に受付でバーコードを読み取るという手法が一般的になっています。来場者の個人情報を平文で印刷するのではなく、独自なバーコードに埋め込むことで、来場管理を効率的にできるだけではなく、来場者の個人情報保護にもつながります。 |
バリアブル印刷のメリットとデメリット
ここまで、バリアブル印刷の概要や活用方法を紹介してきましたが、バリアブル印刷にもメリットだけではなくデメリットもあります。メリットとデメリットをしっかりと把握しておきましょう。
メリット
宛名印字の手間が省ける
バリアブル印刷の用途として最大のメリットを享受できるのが、宛名印字の効率化と言えます。Excelやcsvファイルで管理された宛先のマスターデータさえあれば、簡単に宛名印字を出力することができます。
顧客ニーズに合わせた情報を記載できる
バリアブル印刷で出力できるものは文字列(テキスト)だけではありません。画像やバーコードデータを用意しておけば、顧客に合わせて印刷することができます。顧客の要望やフェーズに合わせてDMの内容を変えたり、特典を可変にしたりと様々な工夫を凝らすことができます。
コンテンツの幅が広がる
文字や画像、イラストを顧客ごとに組み合わせた印刷物を作ることができるため、印刷物のコンテンツに幅を持たせることができます。企画次第で多様な印刷物を作ることができるだけではなく、上述の通りユニークなQRコードを印刷することで、オンラインにおいても様々なコンテンツを提供することができるようになります。
デメリット
印字内容によってはレイアウトが崩れてしまう
通常のオフセット印刷の場合は、1つの絵柄をDTPソフトで制作して入稿データとするため、印刷時にレイアウトが崩れてしまうことは基本的にはありません。一方でバリアブル印刷は、文字や絵柄を印刷する際には可変部分の大きさや範囲を指定する必要がありますが、文字数や文字の大きさによっては指定範囲をはみ出してしまうことがあるため、レイアウトが崩れてしまうことがあります。
このような事態を予防するために、レイアウトデータを作成する際には大きめに印字範囲を指定しておく、複数の文字サイズや文字数でテスト印刷する、バリアブルツールでは長体をかけられるか事前に確認しておくことが重要です。
バリアブル印刷の仕組み
では、バリアブル印刷はどのような仕組みで印刷を行っているのでしょうか。
はがきのDMを例に仕組みを簡単に解説します。
DMの場合、どの宛先にも共通のデザイン部分(ベースデザイン)と、宛先によって異なる可変部分とに分かれています。
ベースデザインはデザイナーによって文字や絵柄といった全体のデザインを制作し、通常の印刷のように製版、刷版、印刷工程を経て、仕上げ断裁した状態で保管しておきます。
可変部分は、Excelやcsvのようなリスト形式のデータをあらかじめ用意しておき、バリアブルツールに取り込みます。組版ソフトでは可変部分を印刷する場所や大きさを設定しておきます。
バリアブル印刷に対応したデジタル印刷機に断裁されたDMをセットし、マスターデータを取り込んだ組版ソフトを連携させることで、個別印字が施されたDMが完成します。
通常はこの後に、可変部分の内容が間違っていないかどうかを目視で検品しますが、画像認識機能を持ったプリンターであれば、この検品作業も効率的に行うことができます。
まとめ
印刷技術はこれまで、カタログやチラシのように少品種大量生産に対応するように進化を遂げてきました。
しかし、デジタル化や顧客ニーズの多様化に伴い、同じものを大量に生産するだけでは顧客の心を掴むことは難しくなってきています。
そこで、個々のニーズに合うようにコンテンツを可変にしたり、印刷効率を向上したりする技術としてバリアブル印刷が注目されています。宛名印字やナンバリングといった文字列だけではなく、バーコードや画像データも顧客ごとにユニークなものにすることが可能となりました。
バリアブル印刷の特徴や用法を正しく理解して、新たな価値を持った印刷物作りを検討してみてはいかがでしょうか。
コニカミノルタでは、バリアブル印刷用のデータを作成、管理できるVariable Studioを提供しています。自動組版や面付などの作業を簡単な操作で行うことができるクラウド型のソフトウェアです。バリアブル印刷が必要な案件が増えてきている今、是非こちらのツールをご検討ください。
コニカミノルタジャパン株式会社 清野 治樹Profile:大学卒業後、印刷会社へ16年間在籍。営業職を中心にデザイン制作やロジスティック部門を経験。現在はコニカミノルタジャパンにて、印刷業界向けの受注支援に繋がる、DX商材の拡販を担当している。 Profile:大学卒業後、印刷会社へ16年間在籍。営業職を中心にデザイン制作やロジスティック部門を経験。現在はコニカミノルタジャパンにて、印刷業界向けの受注支援に繋がる、DX商材の拡販を担当している。 |
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