公開日2024.05.13
国府印刷社の差別化戦略とは?
印刷会社の今後を決める新商品開発
インターネットの普及にともなう紙媒体の需要減少で、市場規模の縮小傾向が叫ばれている印刷業界。昨今はコロナ禍などにより各企業のDX化、ペーパーレス化等の動きが加速し、さらなる縮小傾向に見舞われつつある。この状況下で印刷会社各社はしのぎを削っており、苦境打破のための「新たな一手」が求められる現状となっている。
そんななか、設備投資による高品質な印刷技術の推進を図るだけでなく、新事業や新商品の開発等で差別化戦略を行っているのが、株式会社国府印刷社(本社:福井県越前市)だ。自社の成長や新規開拓を目的とし、独自のブランディングを確立しつつある同社は、2023年度に過去最高の業績となった。そのスピードと自発性においては業界でも高い評価を得ている。
そこで今回は、同社の有定耕平社長に、時代に応じた商品化戦略および今後の印刷業界の可能性について伺った。
まず、国府印刷社の事業内容を教えてください。
当社は、1981年に福井県で設立しました。パンフレットやDM、ノベルティなどの商業印刷事業を主事業とし、旅行業や船舶関係などとも多くお取引をいただいています。工場には製本設備も据えており、上製本以外はすべて企画からデザイン、制作、印刷、製本まで社内一貫生産体制で行える体制を整え、超短納期・高品質な仕上りにも対応しています。2016年9月には「Japan Color認証制度」を福井県で最初に取得しました。また近年ではコンテンツの裾野を広げて、電子書籍や動画制作事業も立ち上げています。そういったデジタルコンテンツの制作も、少しずつ進めているところです。
2011年には、グループ会社「クロスフィールド株式会社」を設立しました。東京の神田と秋葉原でプリントショップを2店舗運営しています。その地域性を生かし、秋葉原ではレーザー加工機やUVのインクジェットプリンターを置いてアクリル印刷を可能としています。
このグループ会社含め、基本的には企業向けの受注生産を主として取引をしています。
商品開発については、どのように実践しておられますか。
商品作りへの取り組みを本格的に考えたのは、2020年のコロナ禍からです。当社においてもパンデミックの煽りを受け、売上が減少してしまいました。なんとかしなくてはと思い、朝礼で呼びかけて社員一人ひとりに新商品のアイデアを提出してもらったのです。
企画部を立ち上げ、集まったアイデアをもとに商品作りがスタートしました。そのときに生まれた商品が、マスクケース「和ごころ」です。こちらは、福井の名産である越前和紙に抗菌印刷を施した商品です。社員より集めたアイデアから、
- ① コロナ禍において必要とされる商材である
- ② 越前和紙を利用することで地元の売上に貢献できる
上記の2点を押さえた商品として、採用に至ったのです。
この商品を広報するにあたっては、商工会議所で行われる新商品発表会、地元メディアを中心としたプレスリリース、SNS等でのPR、そして展示会を中心に活動しました。おかげさまで、地元メディアではたくさん取り上げてもらうことができましたね。
コロナ禍における他の施策としては、福井のB級グルメ「ボルガライス」とコラボして「ボルガライスカード」の制作も行いました。ボルガライスを扱う地域の各店でカードを集め、コンプリートを目指すものです。コロナ禍では飲食業が大変な状況だったので、協力できないかということで企画から携わりました。
展示会出展がアイデアを得る好機に
コロナ禍の間は他社見学や展示会など、可能な限り外へと活動を広げました。常に面白い商品を作りたいとアンテナを立てていますし、試作品をすぐに作れる環境が整っているのでトライアンドエラーを繰り返すこともできるのが当社の強みでもあります。
通常のオフセット印刷のみでは需要は減少する一方のなか、コロナ禍をきっかけに「特徴ある印刷会社」へと舵を切らなければならないのでは、と強く思いました。オリジナリティのある商品開発をすることで広く目立ち、「何か面白いことをしている会社」としての認知を広めたいと感じたんです。
展示会では、メーカーさんの新しい機械や技術を活用して、当社が商品作りをするきっかけやヒントをたくさんもらえます。例えば「色こより綴じ」という商品。こちらは展示会で和紙綴じの卓上機を見て、針金ではなく和紙で綴じるというところが「面白いな」と、ビビッときて即購入したことがきっかけでした。1年後には大ロットにも対応できるように、「ものづくり補助金」を活用して量産機も導入しました。
ただ、導入半年後にコロナ禍になり、このままだとまったく稼働しない状況が続くことに不安を感じ、積極的に展示会に出展してPRしました。
そして、「色こより綴じ」をもっと身近に知ってもらえるように、名刺サイズで展開する「ポケットパンフレット」を作り、当社オリジナルの商品へと進化させました。
これを作ったことで、「色こより綴じ」の認知度が上がり、ご注文をいただけるようになりました。
これだ、と思って即購入した機械で作った商品に「紙製エコファイル」というものもあります。これは(有)三光製のエコ.プレスバインダーという糊や針金を使わず、加圧してファイルを綴じる機械です。通常のA4サイズの「紙製エコファイル」は普及していたため、差別化を図るため、当社オリジナルのものを作れないかと考えていました。そこで先に述べた「ポケットパンフレット」をヒントに、名刺サイズの紙製ファイルを作ってはどうかと思ったのです。名刺サイズのエコファイルミニ用チラシを入れて、名刺交換時の自社商品のPR、プレゼンテーションや展示会、説明会、会社案内などの配布物として活用できます。
「きらめき箔」の使い方で付加価値をつける
差別化戦略という点では、設備投資をすることで人気を得た商品もあります。それが「きらめき箔」です。オンデマンド印刷機の買い替えのタイミングで、コニカミノルタ製デジタル加飾機“AccurioShine101“を導入しました。こちらは、箔押ししたうえで印刷ができるという画期的な機械です。名刺やチラシなどの印刷物に、付加価値をつけたいというときに利用しやすいと考えました。
その好例として、地元・福井鉄道様の開業100周年では、記念乗車券を福井の名産である越前和紙と弊社のきらめき箔印刷を使ってお作りさせていただきました。既存の商品に組み合わせて箔押しができるので、記念チケットなど付加価値性の高い印刷物を展開したいときに提案しやすい商材となりました。
また、展示会に出展することで、名刺交換の機会も増えたのですが、その際に「きらめき箔」で印刷した名刺を持っていくなど、新しいサンプルを作る動きは活性化していきました。既存のものをブラッシュアップするという視点も、展示会が大きなきっかけだったと思います。
しかし、開発した商品はあくまで当社の認知度を高めるためのフックであるべきというのが、私の考えです。今まで開発した商品だけでは当然、大きな売上や利益も得られませんし、主力のオフセット印刷を受注しないことには売上が上がらない。まずはオリジナルの商品で当社の認知度を高め目立たせることが狙いです。
「きらめき箔」を知ったお客様に、それを使ったパンフレットやリーフレットを採用していただいて、以降も継続的に注文したいと思っていただけるようになることが理想です。またそれと同時に、商品開発時には「どうすれば興味を持ってもらえるか、目を引く商品が作れるか」を考えて設計をしていく必要性を感じています。
印刷会社として、差別化戦略にどのように取り組むべきでしょうか。
現状の印刷業界では、通常のオフセット印刷に限ると価格競争が主になることは避けられない流れになっています。当社としても、もちろんそこに戦っていかなければなりませんが、お客様とのつながりを強化し、「お客様にご提案できるツール」を作っておくことが大切だと思っています。新商品開発やサービスの拡充は、そのためのものでもあるのです。
価格競争の部分においては、もちろん採算を合わせることが大切です。技術的な部分で可能な限りコストカットを行い、ロスを減らしていくことで適正価格でのご提案を行う、その企業努力は必要です。そのうえで、ツール等の付加価値の提案をすることでお客様との信頼関係作りに努めることも、価格競争という局地戦における大きな勝因になると思っています。
加えて、新しいことに取り組むうえで重視しているのはスピードです。他社よりも早く実現する、最初に立ち上げるということが、差別化戦略を取り組むうえで大事だと思います。同類の商品やサービスは今後出てくる可能性があるわけですが、それをいち早く取り入れたという実績がブランディングの確立につながっていくと考えます。
今後の印刷業界が進むべき方向性について、お考えをお聞かせください。
AIが生活にどんどん溶け込んでいき、ビジネス全体が様変わりしていくなか、印刷業界もこれから激変していくだろうと考えています。ですから、今のうちに将来のための種を蒔く必要がある。蒔いたなかのどの種が育っていくかは未知数ですが、種を蒔かないと芽は育ちませんから。そのためには会社だけでなく、社員の意識も大切だと思っています。
また、新商品を開発するというのは社員のやりがいにもつながるのではないかと思っています。自分の携わった商品が世の中に出ていくことでモチベーションが起こることもあるかもしれませんしね。
それと、社員教育というほどではないかもしれませんが、意識づけのようなことは行っています。例えば、朝礼では毎回他社の面白い商品の紹介をしたり、展示会へもなるべく参加してもらったりするなど。社内で自然と新しい気づきやアイデアが生まれるような環境を、どんどん整えていっているところです。
もちろん、私自身も積極的に他社へ見学に行っています。先日も台湾を訪れ、現地の印刷工場を視察することで多くの刺激を受けました。やはり他社事例を見ることや、他社の素晴らしい商品を見ることは、ビジネスのヒントにつながると思います。
また、マスクケース「和ごころ」のように社員にアイデア出しをしてもらうことで、意識づけの機会を作ったことも実になりました。今後は、一方的にアイデアを募るだけではなく、社員のモチベーションにつながる仕組みを作っていきたいですね。
今後各印刷会社が向かっていく方向性は、おそらく一方向ではないと思っています。もちろん、そのなかには素晴らしい会社がたくさんあるでしょう。当社としては、そういう会社さんの良いところを取り入れながら、生き残っていくための体力をつけていきたいです。
今後、印刷会社としてどのような成長を築こうとお考えですか。
これからは、既存のお客様との取引に安心するだけでなく、新規獲得をしていくことも成長のために必要だと思っています。現在取り組んでいるさまざまな商品開発もそのためのもので、そこから商業印刷への流入を増やしたいです。
そのような新規獲得の機会としては、やはり展示会への参加・出展が大きなものになると思います。展示会で露出を増やし認知を高めることは、非常に有効であると感じます。新規獲得を考えているのであれば、まずはとにかく1回出展してみると何かしらの気づきにつながるのではないでしょうか。
また新規獲得の機会として、現在当社が優先すべきと考えている事項に、ECサイトによる展開があります。ターゲットなどを絞り込んで機能性の高い印刷通販のようなECサイトを構築し、デジタル面を拡張することで新規獲得を狙っていきたいと思っています。先に展示会の重要性をお話ししましたが、その露出を少々控えてでもECサイトに着手していかなければならないかもしれない、と思っていますね。
ー有定様、ありがとうございました!
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