公開日 2023.09.26
デジタル印刷とオフセット印刷の違いとは?
特徴や活用シーンを解説
ポスターや雑誌、カタログ、DMなど、情報伝達の手段として様々に活用されている印刷物。その多くはオフセット印刷で作られている。一方で、生産効率やパーソナライズの観点から、昨今ではデジタル印刷が活用される機会も多い。当記事では、デジタル印刷とオフセット印刷の違いを解説するとともに、双方のメリット・デメリットを解説します。
デジタル印刷とオフセット印刷は、どちらが優れているということではなく、双方の特徴を理解することで、用途にあった印刷方式を選択することが重要です。
デジタル印刷とオフセット印刷の概要と特徴
まず初めに、オフセット印刷とデジタル印刷との概要を解説します。
オフセット印刷の特徴
オフセット印刷は、大量の印刷物を一貫した品質で生産する際に最も一般的に用いられる印刷方式です。入稿データ(DTPデータ)から、CMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・スミ)4色ごとに網点による版を作成し、それらの版を輪転機や枚葉機といった大型の印刷機に取り付け、それをゴムのブランケットに転写することで、用紙に絵柄が印刷されていきます。
オフセット印刷は、幅広い表現力や印刷効率の観点からポスターや雑誌、カタログなど多様な印刷物の生産に適しています。オフセット印刷は精微な網点を重ね合わせて絵柄を表現しているため、自動車のカタログや化粧品のポスターなど、高い印刷品質を求められる場合にも用いられ、また、CMYKの網点のバランスやインク量を微調整しながら印刷することができるため、色校正や本機刷りでの色味調整がしやすいという特徴もあります。
デジタル印刷の特徴
デジタル印刷は、オフセット印刷のように版を必要とせず、印刷データから用紙に直接印刷する技術です。製版や刷版という工程が不要なため、短期間で印刷物を仕上げることが可能ですが、大量生産が必要な印刷物には適していません。
デジタル印刷は多品種小ロットの印刷に用いられることが多く、オンデマンド印刷やバリアブル印刷など、個別化が求められるDMやユニークなQRコードなど、パーソナライズされた印刷物に適しているという特徴があります。
デジタル印刷とオフセット印刷の違いとは?
このように、デジタル印刷とオフセット印刷には異なる特徴があります。では、それぞれの印刷手法はどのようなシーンで活用されているのでしょうか。
デジタル印刷が適している印刷物
上述の通り、デジタル印刷は多品種小ロットの印刷に適しています。具体的には以下の用途で使われるケースが一般的です。
個別にパーソナライズされたもの |
DMや名刺、ユニークQRコードが印刷されたクーポンなど。いわゆるオンデマンド印刷やバリアブル印刷に使われています。 参考記事:バリアブル印刷とは?活用事例やメリット・デメリットを解説 |
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エリアマーケティング用ツール |
特定のエリアや店舗のみでつかうクーポンやチラシなどに、そのエリアの地図や特典内容を印刷する。 |
短期のプロモーション用ツール |
日時が限られているイベントやキャンペーンのフライヤー、ポスターなど、期間限定で使用する印刷物。一定数必要ではあるものの、大量生産は不要な場合、デジタル印刷で小ロット生産される。 |
オフセット印刷が適している印刷物
オフセット印刷は、大量の印刷物や一貫性と高品質が求められる場合に使われます。普段目にする印刷物のほとんどはオフセット印刷で生産されています。
書籍やカタログ |
ページ数が少なく、大量に印刷する必要がある出版物。 |
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広告物やポスター |
タレントのグラフィックや色見本に忠実な再現性が求められるなど、高い印刷品質が求められるもの。 |
ビジネスフォームや封筒 |
同じデザインを大量に印刷する必要があるもの。 |
このように、デジタル印刷とオフセット印刷は異なる用途で用いられますが、共通絵柄はオフセットで印刷し、可変部分をデジタル印刷で追い刷りするという組み合わせで用いられるケースも多くあります。
印刷フロー
では、具体的にはどのようなフローで印刷物が出来上がるのでしょうか。
オフセット印刷の場合、
入稿:デザイナーやDTPオペレーターによる入稿データ作成
製版:色校正で最終確認(校了・下版)
刷版:校了データを基に印刷用の4色分の版を作成
印刷:刷版工程で作成された版をオフセット印刷機に取り付け、印刷
加工:PP貼、断裁、折り、製本、型抜き などの仕上げ加工
という工程を経て印刷物が仕上がります。
一方でデジタル印刷の場合は、
入稿:オフセットと同様に入稿データを作成
印刷:一般的には大量生産をしないため、デジタル印刷用のプリンターに面付された入稿データを転送し出力
加工:必要に応じて断裁やラミネートなどの加工
というステップで仕上がります。
このように、デジタル印刷の場合は全体の工程が少ないため、入稿から仕上がりまでの時間が短く、小ロット多品種の印刷に向いていると言えます。
オフセットは経験が重要(職人技)
オフセット印刷の場合、全く同じ色味の印刷物が自動的に出来あがっているように思われがちですが、実際にはCMYKのインクの量を微調整しながら色見本(校了紙)に近づけていったり、仕上がりまでの経時変化による色の沈殿も考慮した色味に調整したりと、特に印刷工程では印刷オペレーターの職人技とも言えるような技術が必要になります。このような技術があるからこそ、実物の色に近い見た目の商品カタログやパンフレットを作ることができるのです。
デジタル印刷は各工程の作業がシンプル
一方、デジタル印刷の特徴としては、上述の通りそのスピードが際立っています。印刷スピードが早いということではなく、入稿から印刷までが文字通りデジタルのみで完結するため、版を作ったりインク量を調整したりといった作業が不要となります。また、印刷機自体もオフセット印刷工場になるような巨大なものではなく、オフィスの一角に設置できるようなサイズのデジタル印刷機もあります。
その為、一定のDTPスキルとデジタル印刷用のソフトウェア、印刷機があれば比較的手軽にデジタル印刷に取り組むことができます。
オフセット印刷とデジタル印刷にかかるコスト
オフセット印刷とデジタル印刷では、用途や利用シーンが異なるため、印刷にかかるコストを一律で比較することは困難ですが、オフセット印刷の場合、印刷にかかる総額は高く単価は安い。デジタル印刷の場合、印刷にかかる総額は安く単価は高くなるという傾向があります。
オフセット印刷の場合、上記のイメージ図のように、ロットが多くなるほど一枚あたりの単価は下がっていきます。それに対して、デジタル印刷はロットに関わらず一枚あたりの単価はほぼ変わりません。そのため、デジタル印刷の単価がオフセット印刷の単価よりも高額になる枚数分岐点が存在します。
このような特徴や傾向を把握し、最適な印刷手法を選ぶことが費用対効果の最適化につながると言えるでしょう。
デジタル印刷のメリット、デメリット
ここまで、オフセット印刷とデジタル印刷の特徴を解説してきました。デジタル印刷は、オフセット印刷と比べてどのようなメリット・デメリットがあるのかを整理します。
デジタル印刷のメリット
オフセット印刷と比べた場合のデジタル印刷のメリット(強み)は以下のようなものが挙げられます。
印刷完了までのスピードが早い
前述の通り、製版や刷版という工程がないため、入稿データさえあれば比較的早く印刷物が仕上がります。
小ロット印刷でもコストを抑えられる
デジタル印刷は小ロットの印刷に適しています。オフセット印刷は、ロットが大きければ大きいほど単価は下がりますが、デジタル印刷は小ロットの場合でも高いコストパフォーマンスを発揮できます。
在庫リスクが少ない
印刷物は受注生産品といわれ、顧客からの発注数量に応じて必要な分だけ生産しますが、それでも完成品をすべて出荷・納品するまでは印刷工場や物流倉庫で在庫を抱えるリスクがあります。しかしデジタル印刷の場合は印刷スピードが早い小ロット生産になるため、在庫を持ち続けるというリスクを少なくすることができます。
バリアブル印刷(可変印刷)が可能
デジタル印刷の活用方法として、バリアブル印刷(可変印刷)が可能という点があります。バリアブル印刷とは、ナンバリングや個人情報など、個別にパーソナライズされた情報を印刷する技術の事です。バリアブル印刷の特徴や活用シーンはこちらの記事で詳しく解説しています。
参考記事:バリアブル印刷とは?活用事例やメリット・デメリットを解説
ヤレ紙が少ない
オフセット印刷は版にインキを転写して印刷をするという仕組み上、印刷機を回し始めた直後は用紙にインキが乗りきらなかったり、色調整をしている間は色見本とは異なる色調の印刷となってしまったりします。このような、使用に耐えない状態の紙を「ヤレ紙」と呼びます。
オフセット印刷では、平台では数百枚単位、輪転では数千枚単位のヤレ紙をあらかじめ予備紙として用意しておく必要があります。デジタル印刷の場合は、通常5~10枚程度のヤレ紙で済むというメリットがあり、特に印刷用紙の費用が高騰している昨今ではヤレ紙の少なさも大きなメリットになると言えます。
CO2排出量を減らせる
オフセット印刷機(平台・輪転)と比べると、デジタル印刷に用いられる印刷機は小型なものになります。当然、駆動させるのに必要な電力も少なくなるため、CO2の排出量を減らすことができます。
VOC排出量を減らせる
オフセット印刷に使われるインキには、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどといった、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)が含まれています。VOCは光化学スモッグや人体への健康被害の原因にもなると言われています。デジタル印刷は印刷インキを使用しないため、VOCの排出を抑えることができます。
宛名印字の手間が省ける
オフセット印刷で印刷したDMやハガキは、郵送する際には住所や宛名を書かなくてはなりません。デジタル印刷やバリアブル印刷では、Excelなどで管理された宛名データをそのまま取り込んで印刷することができるため、作業の効率化、省力化につながります。
顧客ニーズに合わせた情報を記載できる
小ロット多品種を強みとするデジタル印刷は、顧客の購買履歴やエリアに合わせて個別に印刷内容を変えることができます。CRMやエリアマーケティングなど、顧客ニーズに合わせたDMやリーフレットの印刷に適しています。
コンテンツの幅が広がる
デジタル印刷の可変性という強みを生かしてコンテンツやクリエイティブに幅を持たせることができます。名前が印刷されたDM、キャンペーン用のユニークQRコードなど、アイデア次第で様々なコンテンツを考案することができます。
人材確保が比較的容易
前述の通り、オフセット印刷のオペレーターには熟練の技術が求められます。この技術は一朝一夕で身につくものではなく、長年の実践や経験が必要となります。一方、デジタル印刷の場合は印刷工程がシンプルであるため、DTPソフトやデジタル印刷機の基本的な操作さえ身に付けてしまえば誰でも均一な品質の印刷物を出力することができます。
デメリット
では、デジタル印刷が苦手なことやデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
トナーとインキの違いによる色味の違いが発生する
私たちが普段見慣れている印刷物は、オフセットで印刷されたものが多いです。オフセット印刷には印刷インキが使用されますが、デジタル印刷はインキではなくインクジェット方式のトナーが使われます。そのため、オフセット印刷と並べて比較すると、多少色味に違和感がある場合があります。しかし昨今、デジタル印刷には色差を修正するカラーマッチング機能を搭載している機種も出てきているため、印刷部数によって機器を使い分けたり、機能が搭載されているかの確認ができると良いでしょう。
特色の対応に制限がある
オフセット印刷はCMYKという4色の掛け合わせで多彩な色調を表現しますが、中には蛍光色や金・銀のようにCMYKだけでは表現できない場合は5色目のインキとして特色を使うこともあります。デジタル印刷は、色見本帳にあるような特殊な色味を正確に出力するには一定の制限がありますが、近年では特色トナーを搭載できる機種や、疑似的に特色に近い色調を出せるソフトも出てきています。
大量印刷には向いていない
デジタル印刷は基本的には「枚単価×部数」で費用を算出します。通し単価や台単価で算出されるオフセット印刷とはことなり、1枚1枚にチャージ料金がかかるため、デジタル印刷で大量に印刷する必要がある場合はコストが見合わなくなることがあります。
使える用紙の種類が限定される
オフセット印刷は、印刷技術による表現力だけではなく、用紙の質感でも多様な表現を生み出すことができます。コート紙、マット紙、上質紙、蒸着紙など多様な用紙を選択できる一方、デジタル印刷では機種によって対応可能な用紙を確認する必要があります。
デジタル印刷の市場規模
このように様々な特徴を持ったデジタル印刷ですが、世の中のニーズはどの程度あるのでしょうか?
まずは印刷物全体の需要を印刷用紙の生産量から見てみましょう。
日本製紙連合会の資料によると、印刷・情報用紙の需要は2000年台初頭をピークに年々減ってきていることがわかります。人口減少、少子化、ICT化など様々な外部要因によって、印刷に使われる用紙そのものの需要が減ってきているのです。さらに追い打ちをかけるように2020年から2022年にかけては新型コロナウイルスの感染拡大により、生活や情報収集のデジタル化が進み印刷の需要はさらに減ることとなりました。
このように、印刷需要そのものが減少している状況下において、デジタル印刷は安定した需要があるようです。
矢野経済研究所の調査によると、デジタル印刷の上は2014年以降大きく減少することはなく、特に2020年以降はやや増加傾向ですらあるということです。
生活者と情報とのタッチポイントがデジタル化されているなか、デジタル印刷の相対的な需要増加は、印刷物においてもコスト効率の向上やパーソナライズされた情報が必要になってきていることの表れともいえるのかもしれません。
印刷会社がデジタル印刷に投資するメリット
最後に、印刷会社がこれからデジタル印刷に予算を投資することの意義やメリットを解説します。
時代の流れに即した印刷物が作成できる
雑誌や新聞など紙媒体の市場規模の低下に伴い、世の中はますますデジタル化が進んでいます。デジタル化された情報はますます質・量ともに増加の一途をたどり、生活者は日々溢れんばかりの情報にさらされています。このような時代において、印刷業界も従来のように企業が一方的にマスを対象とした情報発信をするだけではターゲットに見向きもされません。そこで、個々のターゲットに向けてパーソナライズされた情報が必要となり、DMや販促物などもデジタル印刷を用いた少量多品種の生産に舵を切る必要があります。
SDGsに対応可能
2015年9月に国連サミットで加盟国の全会一致で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、今やあらゆる国のあらゆる企業が取り組むべき目標となっています。前述のCO2やVOCの排出を抑えることはもちろん、適切な情報を適切な人に適切な量だけ届けることで資源の無駄を減らしていくことが求められます。このような観点でも印刷会社は従来の大量生産による印刷だけではなく、デジタル印刷による小ロット生産に取り組むことが重要と言えます。
印刷物に付加価値を付けられる
従来、印刷物の付加価値といえば、均一化された情報を同時に多くの人に届けるということや、高品質な印刷表現の再現性ということに着目されていました。しかし、昨今ではより効率的に情報を届けるという点に重きが置かれており、クリエイターや印刷会社の企画力や創造力がますます重要になっています。その手法の一つとして、デジタル印刷やバリアブル印刷の技術が用いられています。
まとめ
印刷需要の低下や世の中のデジタル化、SDGsやコスト効率の向上など、印刷業界を取り巻くビジネス環境の変化が進む中、従来のオフセット印刷だけでは顧客や生活者のニーズに応えることは困難になってきています。その点、デジタル印刷は個々のニーズに素早く効率的に対応することができるため、様々なシーンでその需要が高まりつつあります。オフセット印刷とデジタル印刷の特徴やメリット・デメリットを正しく理解することで、どの印刷手法を選択すべきかを判断できるようになることが肝要です。
デジタル印刷は比較的低コストで導入することができ、また専用ツールを使うことでデザイナーやDTPオペレーターの属人性を排して生産性を高めることも可能です。コニカミノルタは、デジタル印刷用のデータを作成、管理できるVariable Studioを提供しています。自動組版や面付などの作業を簡単な操作で行うことができるクラウド型のソフトウェアです。デジタル印刷の導入に向けて、是非こちらのツールをご検討ください。
平田 継一郎Profile:印刷会社にて約10年間、商業印刷の営業やオンライン・オフラインのセールスプロモーション企画・販促に携わる。現在はBtoBを中心としたコンテンツマーケティングのコンサル、コンテンツディレクションが専門。 Profile:印刷会社にて約10年間、商業印刷の営業やオンライン・オフラインのセールスプロモーション企画・販促に携わる。現在はBtoBを中心としたコンテンツマーケティングのコンサル、コンテンツディレクションが専門。 |
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