最初にABWの概要と、混同されやすいフリーアドレスとの違いを解説します。
ABW(Activity Based Working)は、オランダのワークスタイル変革コンサルティング企業であるVeldhoen + Companyが提唱した新しい職場の在り方です。ABWの導入により、各社員は仕事内容に応じて働く場所や時間を自由に選ぶことができるようになります。
ABWは単に「働き方」を指すというものではなく、何か一つの形に固定されるものでもありません。ABWの目的は、個人の働きやすさを尊重しつつ生産性を高め、企業のビジネス活動に寄与することです。
1990年代から、世界各地の企業がABWの導入を進めており、それぞれの企業におけるビジネス戦略や企業理念に沿った形で、働き方の改善を行えるようABWが活用されているのです。
ABWの実施によって高い効果を引き出すためには、以下のような要素が必要と考えられます。
社員への利便性を高めることにより、十分な能力発揮につながります。
任されることにより、社員個人の責任感が高まります。
オープンかつ柔軟性を持たせるといった職場環境の整備は、ABW運用の大きなポイントとなります。
働き方の多様化によってコミュニケーションの不足や偏りが発生しないよう、機会や場所づくりへの工夫が求められます。
ペーパーレス化の推進、デジタル環境の整備、必要なデータへの自由なアクセスは、時間と場所を選ばずに業務を遂行する上での条件となります。
自由に業務場所を選べるという点では、フリーアドレス制と混同されがちなABWですが、両者には考え方に大きな違いがあります。
その一つが視点の違いです。フリーアドレスではオフィス面積の効率化によるコスト削減を主目的に置くことが多く、席の自由化や保管場所の省スペース化を主軸としながら管理者側の視点で実施されます。
それに対してABWは、働く人の業務環境を重視します。単に座席数を減らしたり配置を変えたりするだけではなく、社員自身が作業のしやすさ、働きやすさを感じることがポイントとなります。
また、働く場所の対象範囲が広いのも、ABWの特徴です。
フリーアドレスでは座席が固定されていないだけで、基本的に社内が対象とされます。企業内での座席の最適化を目的とするのが、フリーアドレスです。
ABWは作業環境に合わせて働く場所を選ぶことができるため、さらに多様性が広がります。業務スペースの置き方としては、完全フリーのエリアを設置する、あるいは個人作業用、チーム作業用、ミーティング用などに分ける方法も考えられます。
社外まで対象範囲を広げる場合は、自宅・コワーキングスペース・カフェ・屋外など、あらゆる場所が職場に変わります。自分がその時々に仕事をしやすい場所で働くABWは、フリーアドレスの究極の進化系と言えるかもしれません。
ABWの実施に当たり、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。一般的な企業での、導入の流れを見ていきます。
企業の事業内容や社員の層などにより、最適なABWは異なります。社内の意見を聞き取ると同時に、コンサルタントのような第三者的な視点を入れることも有効策です。
調査結果からABW導入が本当に必要なのか、また、実施した場合にはどの程度の効果が得られるのかについての検討を重ねます。
現状での課題解決、働きやすさの改善に向けて、ABWの計画を作成していきます。社外での業務の可否、レイアウト変更、個室ブースの設置、会議室の移動や小会議室への分割など、必要に応じて設計します。社員のアクティビティを高めるための環境の提供や機器類の支給などについて、広く意見を取り入れることが効果向上につながります。
ABWは働く人のための職場の最適化と、企業としての生産性向上が最終的な目的です。導入後には定期的に評価測定を行い、改善をくり返していきます。設置された会議スペースの稼働率や個人の業務遂行状況、在席率などの定量的な情報と、アンケート調査や聞き取りなどから得られる定性的な情報を組み合わせ、より客観的な評価としていくことが大切です。
ABWを導入しやすい職種と具体的な導入の事例を解説します。
ABWを導入しやすいのは、様々な場所で作業を行っても業務に支障がない職種です。例えば、営業や企画などであれば自席外での作業も多く、人の出入りの頻度が高いと考えられます。このような、もともと在席率が低い職種はABW向きです。
また、特殊な端末やスタンドアローンPCといったものが必要な開発・研究職など、自席でなければできない仕事以外であればABW導入の余地があります。
機密性の高い職種や、経理・総務など自席への問い合わせが多い職種は導入へのハードルが高いと言えるでしょう。
ただし、オンライン活用による業務移行の環境が整えば、これまで難しく考えられてきた職種にもABW導入への可能性が広がっていきます。
ABWを積極的に導入し、効果を上げている企業の事例を紹介します。
新オフィス移転を機にABWを導入した例です。導入に当たって、外部のコンサルティング会社による綿密な調査を実施。オフィスの運用や使い方をデータ化・分析したうえで最適なレイアウトを検討しました。その結果、オフィス面積は旧オフィスと比較して大幅に削減。その分の面積をシャワールームやカフェの設置に充てました。
創業100周年を記念した本社新築の際にABWを導入しました。全社的に固定席を置かず、大型ロングデスク、打ち合わせ室、集中コーナーなどを設置。社員は仕事に合わせて場所を移動し、自由に作業場所を選択できるようになりました。
エリア事務所のリニューアルに伴いABWを導入。新オフィスには、開放的な広い空間に作業別エリアを設置し、デスクを配置しています。また在席状況を管理するシステムを導入することで、個々の居場所が不明になるというABWのデメリットを解消させました。効果が得られたことから、今後はさらにABWの導入を拡大する予定です。
さらにABWについて深く知りたい場合には、関連記事「企業の生産性を高める新しい働き方 − ABWの基本的な考え方とメリットとは」をご覧ください。
ABWはフリーアドレス制のメリットを、さらに拡大する考え方です。単に固定席を置かないというだけではなく、各社員がその時々に合わせ、最も働きやすいスタイルを選択していきます。導入の際には現状の調査を行い、自社の事業内容や社員の作業状況に照らし合わせてレイアウトや必要スペースを検討していく必要があります。ABWは画一的なものではなく、企業によって変化するものであることを踏まえた導入の検討が求められます。
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いいじかん設計 編集部
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