公開日2024.05.24
クリエイティブの力を解き放つ RGB印刷の進化
デジタル時代の進展と共に、スマートフォンやタブレットで見るような明るく鮮やかな色を紙でも再現したいというニーズが高まっています。本コラムでは、印刷業界でも近年関心が高まっているRGB印刷にスポットを当て、クリエイティブ産業でのRGB印刷の役割やRGB印刷を実現するための技術的なワークフローについて解説します。
RGB印刷とは
スマートフォンやタブレットの普及により、クリエイティブの多くがRGBで表示される画面上で制作され、また鑑賞されています。そこでいま脚光を浴びているのが、デジタルデバイスの画面での見た目に近い、明るく鮮やかな色再現を可能とするRGB印刷です。
一般的にRGB印刷とは、印刷データをRGBのまま、Japan ColorなどのCMYKに変換せずに入稿し、広い色再現領域を持った印刷方式で再現することを指します。
印刷はあくまでCMYKですが、オフセット印刷の広色域インキや、デジタル印刷機のインクやトナーには標準的なオフセット印刷の色再現領域(例:Japan Color 2011)を超えた色再現が可能なものがあります。RGBでデータを運用することで、それらの広い色再現領域をフル活用した印刷再現を得ることが可能となります。
クリエイターが制作時に求めていたモニター上の鮮やかなRGBのイメージと、CMYKの印刷物上では、その再現に違いを感じることがあります。しかし、RGB印刷であればモニターやモバイル機器で見た色により近い再現が得られるため、クリエイターにとっては作品の色彩・イメージを受け手に正確に伝えるための強力なツールとなります。
なぜいまRGB印刷なのか
より身近な技術となったデジタル印刷機でのRGB印刷
今でいうRGB印刷の考え方そのものは以前からあり、例えば、オフセット印刷では色再現領域の広いインキや、CMYK+追加色の多色プロセス印刷を使用してRGB画像を鮮やかに再現する手法が用いられてきました。しかし、これらの手法は通常のプロセス印刷に比べるとコストが高く、また、製版や印刷に高度な技術が要求されるため、高付加価値な特殊印刷という位置づけとなり、広く普及するまでには至りませんでした。
一方、デジタル印刷機においては、標準のインクセットでも標準的なオフセット印刷よりも広い色再現領域を持つものがあり、また、カラーマネージメントなどで有版の印刷方式よりも自動化できる部分が多く、より簡単なオペレーションで運用が可能なため、RGB印刷は身近な存在となりつつあります。
デジタル技術の発展とともに、RGBデータをCMYKに変換せずに入稿して印刷を行う、いわゆるRGBワークフローに対応した環境が整備されたこともRGB印刷の普及につながっています。後述しますが、アドビではRGB印刷に適したPDFの作成と、その処理に適した技術を提供しています。
広がるクリエイティブのデジタル化
PCのみならず、スマホやタブレットといったデジタルデバイスが普及したことで、誰でも簡単に写真やイラストを編集し、デジタルコンテンツの創作ができるようになりました。
アドビでは「Creativity for All」を理念として掲げ、誰もが持っているクリエイティビティを発揮できるよう、環境を整え、ツールを提供しています。Photoshop、Illustrator、InDesignといったCreative Cloudアプリケーションはもちろん、デザインの専門的な知識が無くてもデザインコンテンツを素早く簡単に作成できるAdobe Expressや、最新の生成AI技術によりテキストから画像の作成などができるAdobe Fireflyにより、デジタルコンテンツの創作は更に身近なものとなり、クリエイターの表現の幅も大きく広がっています。このような新しい技術で生み出されるデジタルコンテンツは、技術の進展とともに今後も増え続けていくことでしょう。
それらRGBで制作されるデータを印刷物へと展開する際、データフォーマットをそのままに、より制作時のイメージに近く表現したいというニーズに応えるのがRGB印刷であり、その利用は更に拡大すると考えられます。
デジタル印刷機とRGB印刷のワークフロー
RGB印刷でのデータ運用は、デジタル印刷機が持っている色再現領域をフルに活用できるよう、RGB画像をCMYKには変換せずにそのまま入稿するRGBワークフローが用いられます。RGBワークフローは2000年代、デジカメ入稿の増加とともに発展しましたが、近年になって広色域なデジタル印刷機の登場とともにRGB印刷向けに改めて活用されています。
RGBで入稿されたデータはRIP(Raster Image Processor)のカラーマネージメント機能により印刷機の色再現領域とマッチングされ、印刷されます。RGBワークフローには、色再現での利点のほか、異なる種類のデジタル印刷機で同じデータを印刷する場合でも、それぞれのシステムの色再現領域で最適な色再現が得られる運用上の柔軟性という利点もあります。
円滑なRGBワークフローの運用には入稿データのフォーマットと、RIPでの処理が重要となってきますので、次項でより詳しく解説します。
入稿データのフォーマット
印刷用データとして幅広く利用されているPDFですが、その中でも印刷業界向けのフォーマットに特化したものがISO 15930で規定されたPDF/Xです。PDFは動画や音声を含め、様々なデータの入れ物として使うことができますが、PDF/Xでは、印刷に不要な部分を使わないようにし、完全な「バーチャル原稿袋」になるよう規格を定めています。
PDF/Xにもいくつかバージョンがあり、かつてはCMYKワークフローを前提にRGBを使用禁止とし、透明効果もPDF化する前にアプリケーション側で処理(フラット化)するPDF/X-1aが主流でしたが、RIP技術の発達により、現在ではデータでは透明効果を維持したままそのまま処理するPDF/X-4の運用が主流となっています。特にRGB印刷では印刷データをRGBで運用する必要があるため、RGB色空間をサポートしたPDF/X-4の使用が必須となります。
実際の印刷に適したPDF/X-4の作成方法については「PDF&出力の手引き」でご案内していますので、ぜひご参考にしてください。
RIP処理とカラーマネージメント
デジタル印刷機に搭載されているRIPは、PDFをプリンタで印刷することができる画像データ(ラスターデータ)に変換する重要な役割を担っています。アドビが提供しているRIP技術、Adobe PDF Print Engine(APPE)は、透明効果やRGB画像を含むPDF/X-4をダイレクトに処理することが可能となっており、また、制作環境でよく利用されているPhotoshop やIllustrator、Acrobatと同じコア技術を使用して一貫性のある表現を実現していることから、RGB印刷に求められる「画面のイメージに近い再現」に一役買っています。
RIP処理の過程では、RGBデータをデジタル印刷機の色再現領域をフルに活用できるよう、最適なCMYKに変換するカラーマッチング処理も行われます。具体的には、RGB画像にタグ付けされたsRGBやAdobe RGBといったRGBのICCプロファイルと、印刷機の色再現領域を定義したCMYKのICCプロファイルを使用して、RGB to CMYKの色変換が行われます。これらのプロセスはすべてデジタル印刷機のコントローラー内で行われるため、適切な設定を行っておけば、複雑な操作も必要ありません。
印刷機側も自動色調整などの機能を備えたものであれば、更に簡単にRGB印刷を行うことができます。
まとめ
最近では、クリエイティブ市場の要請とデジタル印刷技術の進展により、RGBデータでの入稿を受け付けている印刷会社が増えてきました。RGB印刷に対するクリエイターの満足度も高く、通常より高い価格設定でもリピート受注につながっている事例もあります。特に同人誌や写真・イラストなど、色彩が重要視される分野では、RGB印刷の幅広い色域を活用することで満足度の高いアウトプットが得られ、クリエイターと印刷会社との間でWin-Winの関係が生まれています。クリエイティブな表現を強力にサポートするRGB印刷、これからさらに伸長が期待されます。
アドビ株式会社 早川 幸彦Profile:印刷会社、印刷関連ソフトウェアメーカー、コニカミノルタを経て現在はアドビ株式会社に勤務。Adobe PDF Print Engineなどの印刷向け技術のOEM営業を担当。 Profile:印刷会社、印刷関連ソフトウェアメーカー、コニカミノルタを経て現在はアドビ株式会社に勤務。Adobe PDF Print Engineなどの印刷向け技術のOEM営業を担当。 |
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