• 2019.11.21

    通勤の混雑率が200%に!?政府が期待する東京オリンピック時のテレワーク活用とは?

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    通勤の混雑率が200%に!?政府が期待する東京オリンピック時のテレワーク活用とは?
    2020年。来夏にはオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されます。7月24日のオリンピック開会式まであと1年を切り、いよいよムードが盛り上がってきました。
    大会には世界中から15,000人以上の選手がやってくると同時に、観客やメディア、ボランティアスタッフなどを合わせると1,000万人以上の人が東京に集まることが予想されています。

    このような数字を見ると、賑やかなお祭りになることが期待される一方、一抹の不安も覚えてしまいます。元々、東京は23区内だけでも900万人が住むのみならず、昼間人口は1,100万人に膨れ上がる過密都市であり、日常的に過酷な通勤ラッシュや交通渋滞に悩まされる街でもあるからです。この東京に、さらに1,000万人の観客が押し寄せてきたら、私たちの生活は大変なことになってしまいそうです。
    JRや東京メトロなどで、乗車率200%の電車に乗る人が1.5倍ぐらいになる との予測もあります。乗車率200%は首都圏の通勤ラッシュ時と同等の混み具合に相当します。

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ロンドンで実績あり!国と都は対策としてテレワークに期待

ロンドンで実績あり!国と都は対策としてテレワークに期待

交通混雑に対する工夫

このような交通混雑を回避するために、観客の皆様に「来ない」という選択肢はありませんから、ホストである私たち自身が工夫を凝らさなくてはなりません。

例えば、東京の企業は、大会期間中は大きな会議やイベント等は開催しない、原材料の仕入れや製品の出荷の時期をずらす、同業種や近接エリアでの共同物流を図る、などが考えられます。
また、大会期間中は従業員の出勤時間をずらす、夏期休暇設定する、有給休暇の取得を奨励する、在宅勤務やサテライトオフィスを活用する、などの方策も考えられます。

実際、レノボ・ジャパン株式会社やNECパーソナルコンピュータ株式会社などの企業は、2,000人規模の従業員を対象として、2020年7月23日から8月10日までの19日間について、「4連休×2回」+「3連休×1回」+「テレワーク×8日」という勤務体制とすることを発表しました。
これによって、約2,000人の従業員がオリンピック大会期間中は、まったく出勤しなくなる予定とのことです。

2012年ロンドン大会での対策

実は、このような動きにはお手本があります。2012年のオリンピック・パラリンピック大会を開催したロンドンでは、やはり、交通混雑によりロンドン市内での通勤に支障が生じるとの予測から、TfL(transport for London)などの交通当局が、「Get Ahead of the Games」という運動を展開し、期間中、約8割の人々が「移動を減らす(reduce)」「時間をずらす(re-time)」「経路を変える(re-route)」「交通手段を変える(re-mode)」などを実行し、その大半が移動そのものを減らしました。

これは、多くの企業がテレワークや休暇取得などの対応を行ったためと考えられています。
イギリスでは、これを契機にテレワークの普及に弾みがつき、約24%のテレワーカー率はEU加盟国の中でも高い水準にあります。(EU加盟28か国の平均は13.5%)

欧州各国におけるテレワーカー比率(2014年)

日本でもテレワークが対策となるか?

わが国でも、小泉内閣のIT国家戦略である「e-Japan戦略Ⅱ」でテレワークの推進が掲げられて以来、テレワークは徐々に普及を続けており、現在、約19%の企業がテレワーク制度を導入し、雇用型ワーカー(サラリーマンなど)の約17%がテレワークを実践しています。

この数値は、海外の先進国と比較しても、遜色のある水準ではありません。その意味では、東京オリンピック・パラリンピックの大会期間中に、テレワークにより通勤そのものを減らしてしまい、交通混雑の緩和を図る方策は、決して夢物語ではありません。

ただし、わが国のテレワークは、在宅制度を導入している企業でも、適用対象を育児中や介護中の社員に限定するなど、通勤が困難な「特別な社員のための働き方」として導入されてきた経緯もあり、活用者が少ない傾向にあります。 総務省の調査では、テレワーク導入企業の半数以上が、テレワークを利用している従業員の割合が5%未満であることが分かっています。

また、テレワーカーも、在宅勤務よりは、モバイルワークやサテライトオフィスで比較的短時間の業務を行うパターンが多く、交通混雑を緩和できるほど通勤を減らす(reduce)ためには、より一層のテレワークの普及が必要となります。

安倍内閣では、2012年度に11.5%であった企業導入率について、2020年度には、その3倍に相当する34.5%に引き上げることを目標に掲げています。

わが国におけるテレワークの普及状況
国土交通省「テレワーク人口実態調査」(各年度)、総務省「通信利用動向調査」(各年度)に基づき著者作成

本番に向けた予行演習!企業が一斉にテレワークを行う「テレワーク・デイズ」

テレワーク・デイズでオリンピック期間中の予行演習も

テレワークの特徴

テレワークには面白い傾向があります。テレワークを導入前の企業の方々に、テレワークに対する評価を尋ねると、判で押したように、「情報セキュリティー」「勤怠管理」「生産性」「コミュニケーション」などに関する懸念を口にします。

ところが、テレワークを導入後は、多くの懸念点を挙げなくなる傾向があります。
「百聞は一見に如かず」「案ずるより産むが易し」――経験してみないことには話になりません。
ただし、「生兵法は大怪我の基」――常日頃、経験していないことは、いざ、急に実行に移そうと思ってもハードルが高いものです。

壮大な予行演習「テレワーク・デイズ」

実は、そのような観点から、毎年、壮大な「予行演習」が行われています。
総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府の6官庁では、東京都や日本経済団体連合会などと連携し、2017年より、東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、働き方改革の国民運動を展開しています。

2017年は7月24日に約950団体、6.3万人が参加し 、2018年は7月23日~27日の5日間を「テレワーク・デイズ」と位置づけ実施したところ、1,682団体、のべ30.2万人が参加しました。
2019年は更に期間を延ばし、オリンピック・パラリンピック東京大会の開催期間をカバーする7月22日~9月6日の約1ヶ月半の間を「テレワーク・デイズ2019」実施期間と設定し、企業や官公庁等に対してテレワークの一斉実施を呼びかけた結果、2,877団体、のべ67.8万人、と参加企業・団体、参加者数が大幅に増加しました。

特に、(東京オリンピックの開会式である)7月24日について見てみると、2018年度は東京23区内に勤務地がある通勤者の約3.4%、約9.7万人の通勤者が減少したのに対して、2019年度は約8.9%、約25.5万人の通勤者が減少しています。

実に、テレワークによって、1割近い通勤者を減らすことに成功したと言うことができます。
同時に、各企業のオフィスフロア消費電力の削減、事務用紙等の削減、残業時間の減少、などの効果もあり、様々なムダを減らすことにも成功しています。

働き方改革にも役立つ!テレワークをオリンピックの「レガシー(遺産)」に

テレワークをオリンピックのレガシー(遺産)として定着を

オリンピックのレガシー

オリンピック・パラリンピック大会が開催されるのは、それぞれ僅か約2週間ずつ、と短い期間ですが、大会は閉会後にも、有形無形の大きな影響を残すことが期待されています。

この場合の遺産(レガシー)とは、単に、オリンピック開催に伴い整備したインフラストラクチャー(競技場や道路など)を活用することに留まらず、社会的遺産・文化的財・環境財なども含めてレガシーと考えられており、国際オリンピック委員会が定める「オリンピック憲章」にも、「オリンピック競技大会の有益な遺産を、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する。」と明記されています。

テレワーク・デイズ2019」でも、レガシーとして「東京2020大会をきっかけに、日本社会に働き方改革の定着を!」と謳っています。

「働き方改革」の切り札としてのテレワーク

テレワークは、単に、通勤者を減らすだけの効果が期待される働き方ではありません。
テレワークという、情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実践することによって、従業員にとっては、育児・介護中の就労がしやすくなる、ワーク・ライフ・バランス(仕事と私生活の調和)を実現しやすくなる、業務に集中でき、あるいは外出先から無理にオフィスに戻る必要がないので業務効率が向上する、その結果、長時間労働が削減される、などといった効果を期待できます。

企業の側から見れば、様々な事情で通勤が困難な優秀な人材を雇用しやすくなるなど、多様な人材の新規雇用や雇用継続に有効であったり、業務効率改善の結果として生産性が向上したり、といった経営面のメリットを期待できるとともに、災害時などにおける業務継続の担保としても役立ちます。

また、通勤負荷の軽減やワーク・ライフ・バランスの実現は、少子高齢化・労働力減少社会に対するソリューションの一つでもあり、都市問題や都市・地方格差問題に対する解決策とも考えられます。
まさに、テレワークは「働き方改革」の切り札と言えるでしょう。

レガシーとしてのテレワーク定着への期待

そのようなテレワークが、オリンピック・パラリンピック大会に伴う交通混雑の緩和対策とはいえ、大きな規模で導入されることは重要な意味を持ちます。

先述したように、テレワークは、実践しないとアラばかりが目立つ一方で、一度、経験してしまうと、気にならなくなる傾向があります。とすれば、目先の目的は何であれ、テレワークを実践してしまうと、大会終了後も、多くの企業やワーカーがテレワークを受容し、定着していくことが期待されます。

まとめ

わが国のテレワークは、外資系企業やIT企業に先導されて徐々に浸透してきましたが、逆に、地方自治体(市区町村)などでの取り組みが遅れがちと言われてきました。これまで、市区町村の職員がテレワークを実践している例は、1,700を超える団体のうち、数えるほどしかありませんでした。

ところが、昨年来、「テレワーク・デイズ」への参加を契機として、テレワークを実践する市区町村が、東京都港区、渋谷区、町田市、などのように、次々と出現しており、職員の働き方改革や、役所全体の業務改革を志向した積極的な取り組みが目立っています。なかなか機運が盛り上がらなかった地方自治体の職員のテレワークを一気に推し進めるほどのパワーが「テレワーク・デイズ」にはあるようです。そして、それは、オリンピック・パラリンピック東京大会のインパクトでもあります。

1964年の東京オリンピックが、新幹線や高速道路などのレガシーを残したように、2020年の東京大会が、日本社会の岩盤をこじ開け、テレワークの普及というレガシーを残してくれることを期待したいものです。


コニカミノルタジャパンではテレワークを実行する上での様々な課題を解決するソリューションに加えて、人事・労務まわりの制度見直しまで、ご支援することが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

文責:國井 昭男(日本テレワーク学会副会長)
株式会社情報通信総合研究所 主任研究員
東京大学卒業。博士(システムズ・マネジメント)。東京大学新聞研究所、郵政省郵政研究所、筑波大学、(財)世界平和研究所などを通じて、テレワークなど、ICTが社会や組織等に与えるインパクトについて研究。2006年より現職。主として公的セクタのリサーチ業務・情報化施策コンサルティング業務を担当。

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