離職率の改善に向けて何をすべきか?原因と理由から対策を考える
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人材の確保がますます厳しくなる状況下で、離職率の高さは企業にとって大きなダメージとなります。人的リソースが不足すると業務が滞るだけでなく、採用コストの増大、企業ノウハウの流出など、リスクは計り知れません。
ここでは離職防止の重要性に加え、離職率が上がる原因、人材が流出しやすい企業の傾向、離職率低下への施策例などについて解説していきます。
離職防止対策の重要性
はじめに離職防止がなぜ企業にとって重要となっているのか、社会背景と合わせて解説します。
企業がおかれた社会背景
日本国内では人材確保が困難な状況下にあり、将来的にもこの傾向が高まることが予測されています。
日本の総人口は2023年8月現在で1億2454万人となっていますが、2050年に約1億人まで減少する見込みです。今後は特に、生産年齢人口比率の減少が加速傾向にあり、働く現役世代の減少が顕著であることが分かります。
そうしたなか、厚生労働省の「令和2年転職者実態調査概況」によると2020年時点で「一般労働者がいる事業所」のうち3割超が、「転職者がいる」と回答しています。「運輸業、郵便業」「鉱業、採石業、砂利採取業」「学術研究、専門・技術サービス業」ではいずれの業種においても4割以上となっています。
今後の転職希望については、「機会があれば転職したい」という声が各世代で見られ、特に若年層では高い傾向にあります。若い世代ほど転職についての抵抗感が薄れ、より良い職場を求めて移動することをいとわない、労働者側の意識の変化も見過ごせません。
生産年齢人口の減少と企業のあり方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
離職率が高いことにより発生する問題
離職率が高いことにより、企業に発生すると思われる問題には以下のようなものが挙げられます。
■業務の遂行に支障が出る・事業展開が思うようにできない
人員不足が生じる、またノウハウや経験値のある人材が流出することにより、業務が円滑に進められなくなる恐れがあります。新しい事業のスタート、既存事業の拡大に際して、人的リソース不足の不安が障害となります。
■社会的イメージの低下・ブランディングへの悪影響
離職者が多いと、企業の待遇や居心地の悪さが想起され、社会的なイメージが低下します。従業員からの支持が低い企業と見なされると、ブランディングにも悪影響を及ぼします。
■採用・教育コストの増大
離職者の穴を埋めるための採用活動や、新入社員に対する教育コストがかかります。離職傾向がとまらない限り、これらのコストが恒常的に発生し、企業経営を圧迫します。
■社内士気の低下
ともに働く仲間が次々に辞めていくといった状況が続けば、残っている従業員の士気が低下します。企業に対する信頼性に疑問が生じるようになると、さらに離職率が悪化する原因となります。
■信用性の低下
IPO審査(株式上場をするための審査)では離職率が重視されるため、市場での企業としての信用に影響します。
離職率が上がる原因
現代企業に起こりがちな、離職率を上昇させると見られる原因には以下のようなものがあります。
■労働条件・賃金
先の「令和2年転職者実態調査概況」の離職理由では、労働条件と賃金が高い位置を占めています。働く上でもっとも基本的な要素であり、正当な対価が得られないと見なされることで離職を誘発します。
人材獲得と賃金については以下の記事で詳しく解説しています。
■ストレスの蓄積
人手不足などの課題があっても周囲からの理解が得られず、その状況を改善する動きが見られない場合、従業員には疲労によるストレスが蓄積していきます。
業務負担が重すぎる、逆に物足りなさを感じるなど、能力・スキルの正当な評価や判断が得られていないこともストレスの原因です。
また、人間関係が複雑化している、ハラスメント問題が見過ごされるなど、企業が積極的に関わるべき問題を放置することにより、従業員のストレスが肥大化していきます。
■企業システムの問題
年功序列、縦割りなど、旧態依然とした企業システムのままでは働きやすさを感じられません。時代の変化に合わせたシステム変更・改善が行われていない企業は、離職率が高まるリスクがあります。
有給休暇の消化率が低い現状への対策といった、企業としての課題への改善アプローチが見られないことで従業員に失望感が生じます。さらに公正な評価制度が確立されていないと、働きが正しく認められていないと感じ、離職へとつながります。
■社内コミュニケーションの希薄化
社内コミュニケーションの不足も、離職率低下の潜在的な要因です。気軽な問いかけや相談ができない、社内の雰囲気が悪くギスギスしている職場では、働く意欲を失い、精神的なストレスが蓄積していきます。
■将来への不安
先に挙げた正当な評価が得られないことに加え、教育制度が整っていない、成長の機会が得られないなどにより、将来に向けたキャリアパスが描けないことも従業員に不安を与えます。
制度的な問題とも関連しますが、企業のあり方として柔軟な働き方への対応が感じられないと、ライフステージに変化が生じた場合の不安となります。
離職してしまう主な理由
近年、人材の採用、配置、教育業務を指すHR分野では早期離職につながる3つの要因(GRC)が注目されています。
■G(Gap)
イメージしていた企業内の状態や業務内容と、現実とのギャップにショックを受けることによる離職です。時間が経っても乖離した部分を埋められない、埋められる希望が持てないことで現職へのあきらめが生じます。
■R(Relation)
直属の上司との関係性を指します。相談できない、真意を打ち明けられない、意思疎通ができないことから適切な指導や支援が受けられずにいると、孤立感が深まり、離職へと追い込まれます。
■C(Capacity)
業務量が多すぎて仕事に付いていけないことで、自分の能力に対して無力感を持ち離職してしまいます。逆に量が少なすぎると、期待されていない気持ちを持つようになります。
厚生労働省の「令和2年雇用動向調査結果の概況:転職入職者が前職を辞めた理由別割合」によると、定年や家庭などのやむを得ない事情以外の個人的な理由として挙がっているものでは以下のような理由があります。
- 仕事の内容に興味を持てなかった
- 能力・個性・資格を生かせなかった
- 職場の人間関係が好ましくなかった
- 会社の将来が不安だった
- 給料等収入が少なかった
- 働時間・休日等の労働条件が悪かった
いずれも企業側の体制改善や従業員に対する働きかけにより、回避できる可能性があります。企業ではこれらの理由を見逃すことなく、改善策を早急に検討する姿勢が求められます。
離職率を改善するポイント
先に示した離職の原因や理由から、改善するためのポイントを解説します。
離職率を改善するための企業としての姿勢
■現場の働き方や業務の問題点などの現状を把握する
課題を改善していくためには、現状を直視することが重要です。見逃しや思い込みが、大きな問題へとつながっている恐れがあります。
■社会の流れと自社の各種システムや制度がマッチしているか見直す
慣例、慣習への固執が企業システムの刷新を妨げます。客観的な視点から時代に合った制度であるかを見直す必要があります。
■働き続けたい企業とは何か、あるべき企業の姿を明確化する
企業ビジョンと従業員の意識のすり合わせを行い、最終的に自社が求める理想的な姿を、経営側と働く側双方の視点で描き、提示する必要があります。
■従業員の声を収集する仕組みをつくる
生の声をいち早く拾い上げる仕組みをつくり、離職の原因となる要因に気付く機会としていきます。
従業員の離職理由に対する改善ポイント
離職理由から見えてきた課題に対しての改善ポイントを紹介します。
■仕事内容についての課題
仕事内容に関する理由のなかには、「やりたい仕事ができなかった」という声も聞かれます。事業部間の交換留学や自発的な他部署移動など、無理なく個人の興味や適性を満たす機会を提供する方法があります。
現在の業務と離れた分野でも意見を出すことができる、業務改善アイデアコンテストなどは、隠れた能力を引き出す場となります。
■労働時間・働き方についての課題
フレックス制度導入・時短制度・テレワークの推進により、個人の事情に合わせた柔軟性のある働き方が可能となります。そのためには制度の変革とともに、通信やデータ共有といった物理的な面での体制整備も必要です。
休暇取得の全社的な奨励により、休みにくさをなくし、従業員の相互的な理解を促すことで、働きやすい職場を実現します。
■給与・待遇についての課題
納得のいく給与・待遇につながる評価制度の公正化・明確化は、企業としてもっとも重視すべき課題です。
また福利厚生パッケージサービス導入といった施策では、従業員の利便性を高めることにより、企業への信頼性強化に役立ちます。
■コミュニケーションについての課題
社内コミュニケーションの活発化の具体的な施策には以下のようなものがあります。
- 1on1ミーティング・コーチング・フィードバック:上司との信頼関係の構築、密な会話の機会を得られます。
- 企業が積極的に関わる姿勢:例えば、飲み会費の補助やサークル設立の奨励など、企業が支援しながら交流の機会を増やします。
- 社内コミュニティーサイト・社内報:社内情報や他部署の様子を共有し、共通の話題をつくるのに効果的です。
- コミュニケーション活性化に向けた施設の整備:フリースペース、社内カフェ、休憩室など、会話が自然発生できる環境を整備します。
- オフィスレイアウト変更:フリーアドレス制の導入やABW(働く人の活動に基づいたオフィス設計)など、働きやすい環境であると同時に、従業員同士が声を交わしやすいレイアウトを検討します。
■将来への不安についての課題
勉強会や研修会の開催による学習機会、資格取得支援など個人的なスキルアップをサポートしていきます。
キャリアアップのための道筋を提示・支援し昇進・昇格を促す、キャリアパス制度の導入も従業員が将来的な展望を持つためには有効な手段です。
IDEA SHOWROOMでは人材定着に向けて参考となる情報を解説しています。
あわせてぜひご一読ください。
離職率改善は現状課題を真摯に見つめることから始める
根本原因がある限り離職率の改善は困難です。本腰を入れて取り組むためには、自社の現状の課題をしっかりと把握し、地道に一つずつ障害を取り除いていく必要があります。離職率改善とは、対人間の課題であると同時に、企業全体のあり方への問いです。既存の型にはまったままの硬直化した制度を押し付ければ、従業員の心は離れていきます。激変する時代のなかで、働きやすい企業とは何かを見つめ直すことで、離職率改善の道も見えてきそうです。
いいじかん設計 編集部