#2 ベテランの定年退職と人材採用の困難化

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#2 ベテランの定年退職と人材採用の困難化がもたらす事業経営への影響

前回のコラムでは、日本のマクロトレンドのなかで今後の国内企業がもっとも影響を受け得るものとして、労働人口減少、平均賃金の停滞、プラットフォーマーの台頭によるビジネスモデル変革の3つについて考察しました。
今回はこれらの背景から今後起こり得る事態として、まずはベテラン社員の高齢化と定年退職、人材採用の困難化について考察します。

INDEX

【問題1】スキル保有人材の高齢化と退職

現在、社内で50歳代の「あの人」しかできない業務はありませんか?なかには、すでに定年を迎えている再雇用の人にしかできないというケースもあるかもしれません。これまでほかの社員が代役を務めようとしてみたものの、その人ほどは上手くできず、一見仕上がっているように見えても本当の完成度は全然違うような成果物もあるかもしれません。

例えば五感を活用した品質評価や打音検査、刷毛の使い方で仕上がりが異なる特殊塗装などの技能はもちろんのこと、オフィスワークのなかでも、契約トラックの運行表を見ながら新たな受注に応じる運輸業の配車業務、あるいは申請書の記載ミスを発見して適切な差し戻しをする手続きなど、様々なケースがあり得るでしょう。それらは実質的に伝統工芸と類似しており、どんな勘どころ、どんな技能で成立しているのかが傍目には分かりません。ベテランも「体の感覚」で染みついているため、他人に上手に教えることができなかったりするものです。

この問題が深刻である理由はいわゆるスキルの属人化であり、代替が利かないところにあります。それにもかかわらず現時点でスキル保持者が対応している限りは品質問題などとして表れてこないため、経営層は認識していないか、あるいは目をつぶっているかもしれません。
10年後、現在50代の人は60代、60代の人は70代と、雇用のタイムリミットは着実に迫ってきます。現在、陰で品質を支えているその人が企業から引退した翌日以降に問題として顕在化し始めるでしょうが、その時にはもう暗黙知は社内に残っておらず手遅れになるでしょう。品質が保てないことによる販売メニューの削減や、代替手段の買い入れなどによる大掛かりなコストが発生することになりかねません。

【問題2】新規採用人材獲得の困難化

新規採用人材獲得の困難化

新卒がいない、採れない

かつてのバブル期の日本での就職活動は、企業の採用枠に対して就職活動中の学生の数が少なく、一人の学生が複数企業の接待を渡り歩いて好みの就職先を選ぶという現象が珍しくないような、極端な「売り手市場」でした。
ところがバブル崩壊後に大きく逆転し、「就職氷河期」と呼ばれる時代がきました。学生にとって厳しい「氷河期」というのは、逆の立場の企業から見れば、就職先のなかなか見つからない学生が大量に残存している状態になるので、学生のクオリティーが急激に変動しないという前提においては質の良い人材を効率的に取得するチャンスとも言えます。

本来、企業における人材獲得というのは採用後の40年にわたって影響を及ぼす長期のテーマであるにもかかわらず、直近の業績によって採用人数の多寡をコントロールするというのは全く筋の通らない話ですが、それは置いておいたとしても、採用活動による人材獲得の容易性というのは需要と供給によって大きく変動します。景気の良かったバブル期は多くの企業が募集人数を拡大し、互いに待遇の良さを競って多くの新入社員を採っていましたが、今後訪れる人材獲得の困難化は、企業の景気とは関係なく、新社会人の減少に起因します。

バブル絶頂期の1990年に22歳を迎えた1968年生まれの日本人は約187万人いたのに対し、2030年に22歳を迎える2008年生まれの日本人は109万人しかいません。これは40年前のバブル期の6割を切っていることになるのです。

出生数、合計特殊出生率の推移

出典:厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書 -令和時代の社会保障と働き方を考える-」

また、バブル期に入社した世代は2030年以降に定年を迎える世代でもあるのです。第2次ベビーブームの年齢層(いわゆる団塊ジュニア世代)が続々と退職していくのに対し、仮に同レベルの従業員数の維持が必要ならば、当時の約半分程度しかいない年齢層から同じ数の人材獲得が必要になるので、圧倒的な供給不足が起こるでしょう。

非正規雇用も獲得できない

新卒の採用活動が振るわないなら、非正規雇用者を採れば良いと思うかもしれません。しかしそれも上手く行かないでしょう。多くの方々の認識では、1999年と2000年の派遣法改正によって人材派遣の対象業務が広がり、派遣労働者や契約社員などが増えたと考えていると思います。確かに日本の非正規雇用者の数は右肩上がりに増えていましたが、実際のデータを見てみると、増えていたのはパートとアルバイトであり、契約社員、嘱託、派遣社員は増えていません。そして2019年からは「同一労働同一賃金」などの政策により微減を始めています。このまま労働人口が減り、新規採用が困難になって来たことを察知した企業は、自社の戦力の安定確保を理由に非正規雇用の正規化を進め、国内の非正規雇用者の数はますます減少していく可能性があります。

非正規雇用者数の推移

出典:公益財団法人 生命保険文化センター「非正規雇用者数の推移」

唯一、減らないのは65歳以上のシルバー人材ではないでしょうか。人材派遣会社などを当たっても、長年勤めていた企業の再雇用期間を終えた人員しかリストに残っておらず、「ちょっと前までは、急でも少しお金を弾めば優秀な臨時の即戦力が獲得できたのにね…。」などとため息交じりの会話も聞かれるかもしれませんね。

外国人労働者も来ない

この状況にさらに追い打ちをかけるのが、前回のコラムで日本の大きな課題の一つとして挙げた、日本の労働賃金の停滞による相対的な「賃金安」です。2000年代までは、東南アジア諸国に比べて社会インフラが整い、安全で、賃金レベルも高く、魅力的な国でした。就労ビザを取得して、憧れの日本で働きたいという若者が多かったことでしょう。
しかし、今となっては韓国にも抜かれ、円安の進行で更に賃金は安く見えます。現在はまだ平均年収が日本の10分の1のフィリピンやベトナムも、経済成長率は毎年5%を超える勢いで継続的に成長を遂げていますので、やがて日本の平均賃金を追い抜くかもしれません。わずか5%でも20年続けば2.7倍、8%ならば4.7倍です。少なくとも20年前まで多くのアジア人が抱いていた日本での就労に対する憧れは過去のものになっていくと同時に、それらの国から来てくれる語学堪能で有能な外国人は減るでしょう。こちらも「買い手市場」から「売り手市場」に変わるということです。

まとめ

いかがでしたか? いま社内で頼りにされている人材が定年や転職で抜け、さらには必要な人員が簡単に確保できないとなれば、事業継続性に関する深刻な問題になりかねません。
次回は、引き続き近い将来の国内企業で起こり得る人材獲得関連の派生問題やその他の事柄について解説します。

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