#3 人材確保競争からの賃金上昇トレンドも?一筋縄ではいかない利益確保の課題

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#3 人材確保競争からの賃金上昇トレンドも?一筋縄ではいかない利益確保の課題

前回のコラムでは、労働人口減少というマクロトレンドのなかで日本国内の企業に起こり得る、人材の高齢化と新規採用の困難化の2つの問題について考察しました。
今回は、それを受けて企業内に波及する3つの問題点について考えていきます。

INDEX

【問題3】従業員満足度を指標に激化する優秀な人材の取り合い

前回のコラムでご紹介したように、組織の役割や、業務マニュアルに書かれることのない感覚的なスキルの顕在化、人材の新規獲得が困難になれば、改めて今会社にいる人材は貴重な財産として再認識されるようになるでしょう。貴重な人材の突然の退職を可能な限り未然に防ぐため、従業員満足度をスコア化し、経営指標とする企業が増える可能性があります。それがさらに発展すると、企業間での優秀な人材の獲得競争が激しくなります。

■従業員満足度の把握で気を付けたいポイント

多くの場合、従業員満足度のアンケートは社内で作成され、以下のような質問で構成されるでしょう。

「今の会社で働く満足度は?」
「満足度を上げるための改善ポイントは?」

前者は問題なくスコア化できると思いますが、後者の改善ポイントの質問は工夫が必要です。例えば、上司との関係性や残業時間の多さ、社員食堂の質といった、社内で思い当たる不満指標について質問をしても、アンケートを実施せずとも把握できる結果以上のものは得られないでしょう。ここでアンケートを実施する目的は、多面的に働き方を調査し、隠れた改善ポイントを把握すること。何が従業員の不満で改善ポイントなのか組織や会社が正確に把握できていればアンケートなど不要ですよね。

また、社内でアンケートを作成すると、できるだけ良い結果を得ようと回答を誘導するような質問になってしまう恐れもあります。社内で作成して結果が悪いと「アンケートの取り方が悪い!」などと作成者が責められる…ということもあるかもしれませんね。

従業員の満足度を定量的に計測したい場合、組織を捉えた働き方の課題を多面的な調査で抽出すると効果的です。産学連携研究・コンサルティング実績に基づき、偏りのない質問項目と分析ナレッジから改善ポイントを導き出す「働き方状況把握アンケート」の活用がおすすめです。

今後、採用活動は業務内容と賃金が今以上に論点となり、活性化すると予測されます。そのなかで従業員満足度を正しく把握し、問題解決や改善ができなければ、人材の採用と定着は難しくなるでしょう。渡り鳥のように転職を繰り返す社員を横目に、従業員満足度を維持・向上するため、慣れない経営層や人事部が悪戦苦闘を強いられることになるかもしれません。

【問題4】賃金上昇と商品の値上げ

賃金上昇と商品の値上げ

おそらくですが、世界から置き去りになっている日本の賃金停滞がこのまま見過ごされ続けることはなく、何らかの目標値を持って実効的な賃金上昇が起こるような政策が適用されると考えます。そうでなくとも、上記の人材獲得の企業間競争が激化すれば、経営者は賃金を上昇させざるを得なくなるでしょう。ここで問題なのは、品質や生産量を変えずして賃金を上昇させると利益が圧迫される、ということです。

例えば、現在時給2,000円の社員が生産している商品があったとして、時給を2,500円にしたい場合、利益を得続けるためには多くの企業は商品の値上げを選択するでしょう。ここで、商品の「量」の増加や「質」の向上など、消費者に値上げを受け入れられる理由(メリット)があれば何も問題はありません。
長年の流通ですでに成熟している多くの商品は、質も量も簡単には上げられません。そして、国全体のレベルで実質的な生産量や消費量が変わらないなかでの賃金や売価上昇が繰り広げられてしまえば、単に貨幣価値を下げるだけの「インフレ」に留まり、企業や消費者を豊かにすることが無いので国策としては失敗となってしまいます。この問題は日本の死活問題となりかねない重大な問題と考えられます。

【問題5】国内需要の減少に伴う販売量の低迷

日本の人口構成の変化で大きな影響を受けるのは、労働人口だけではありません。第1話で紹介したグラフの通り、行動的な“消費層”でもある0~14歳と15~59歳の人口減少に伴い、国内需要は減少していくことになります。一人あたりの消費量がほぼ変わらない生活用品やサービスの販売量は、人口に比例して低下していくことになるでしょう。

年齢区分別将来人口推移

出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」

前項にて、商品の値上げを払拭する消費者の購入動機として「量」と「質」の2つのアプローチを挙げましたが、「量」の増加があまり現実的でないことにお気付きかと思います。例えば、「まとめ買いがお得」というキャッチフレーズでの「量」の増加は短期的な効果でしかなく、購入頻度を下げることにもなるのでトータルでの売上減少は避けられません。

ここで、「内需が見込めないなら円安の強みを活かし、国外需要に向けて大量に輸出をすれば良い」と思うかも知れませんが、実際にはそう簡単にはいきません。グラフは世界各国のGDPにおける外需の割合を示したものです。日本は現時点でほかの主要な国々と比べてもアメリカに次いで少なく、15%程度となっています。

輸出総額(対GDP比)の推移

出典:内閣府「日本経済2015-2016」

小学生時代の社会の教科書を思い出してみると、日本は家電製品、自動車、そのほか重厚長大何でも輸出している工業大国のイメージがあると思います。しかしながら、ほかのどの先進国からも遠く離れた島国である日本が輸出をするには、船または飛行機を使わざるを得ません。生活用品や食料品などを輸出しようと思った時、空輸では円安を帳消しにしてしまうほどの高額な輸送コストがかかり、船では欧米まで運ぶのには日数がかかるため消費期限との戦いになります。
もちろん、今後外需に向けた国内生産の輸出製品を戦略的に増やしていくことは、(厳しい戦いになるとしても)企業が生き残るための有効な選択肢の一つです。しかし、それだけで国内の需要減少の全てを賄うことはできず、残りは国内需要で上手くバランスを取る必要があります。

まとめ

企業間で希少な人材の獲得競争が激化することで賃金が上がり、市場も縮小するような将来の日本について考察しました。もしこのまま企業が生産性を上げられなかったら、そのマイナス影響は計り知れないものになるでしょう。これは何としても回避したいところです。
次回は、2030年、あるいは2040年に経営者層や管理職となる方々の視点で、今後予測される国内企業間で起こり得る変化と、その突破口の模索について整理していきます。

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