#5 効率化の追求よりも、従業員の知識と特性を引き出す仕掛けが大切
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- #人材採用と定着
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前回は、人口が減っていく過程で、国内に流通する商品が減少してシンプルなマーケットになっていくと同時に、生存競争が激化した国内企業の数はさらに減少していくという未来想定について解説しました。
今回は、これまでの記事で挙げた5つの顕在問題の核心を探りながら、これから企業がどうすれば健全に生き残れるのかについて、皆様と一緒に考えていきます。
INDEX
【問題1の核心】業務の属人化による後継者育成機能不全
第2話冒頭に挙げた【問題1】は「スキル保有人材の高齢化と退職」でした。企業内で鍵を握る従業員の退職により、目に見えないナレッジやノウハウが喪失し、競争力や価値提供力を失って事業継続が困難になる、という予測をお伝えしました。心当たりのある方は、現在の社内のキーパーソンを思い浮かべ、その方が退職するまでにあと何日かを考えたかもしれません。
実はこの問題の本質は「人材が退職すること」ではないと考えます。従業員の高齢化と引退は、我々の社会では産業革命以前からごく当たり前の自然の摂理であり、企業もその摂理を受け入れて事業を継承してきました。ではなぜこの摂理が今、深刻な問題になっているのか?その最大の要因は、退職者が業務遂行中に獲得したスキルとナレッジを後輩に十分に引き継ぐことができなくなっているからだと考えます。
その背景としては、バブル崩壊以降多くの企業で徐々に常態化しつつある業績優先のための短期的な効率化重視があると考えます。企業として生産効率を極度に重視していったとき、特定の業務をこなして成果を出すためにもっとも効率的なのは「その仕事をいまもっとも早く正確にこなせる人が、その業務に専念する」ことです。
現在の社内で主戦力となっている中堅層の方々は、若い時に色々な失敗をして学ぶ機会が多くあったと思います。しかし現在は失敗をして学ぶ時間やコストの余裕がなく、少しでも黒字化に貢献しようと、施策の前倒しや刈り取りの確実化などの「失敗の許されない挑戦」がひしめき合っています。
その結果、ナレッジの水平展開やOJTでの次世代育成が(以前と比べて)疎かになっていないでしょうか?これを重ねるうちに、臨時の対応だった緊急措置がやがて常態化し、「この業務は、あの人に任せるしかない」という状態になっていきます。切り札を持たないまま対前年度での成長を約束し続ける企業では、予算やスケジュール自体が、ノーミスでフル稼働を前提としたものになっていくからです。
そうなってしまう根底にあるのは、経営的な観点で暗黙知の資産評価ができていないからと考えます。もしも業務活動に不可欠なナレッジやノウハウを知的財産としてスコア化し評価することができれば、「知的財産の共有で増大する資産の量=利得」、あるいは「誰にも引き継がれずに喪失してしまう財産の量=損失」を評価することができ、財務の視点での業績を重視する事業計画のなかでもそれらを天秤にかけることができるでしょう。今は可視化されていないので、従業員が持つナレッジやスキルはいわゆる「無形資産」などと呼ばれる存在で、当期利益と天秤にかける対象にはなり得ないのです。
もちろん、暗黙知はそう簡単に体系化できないものですが、その組織や人にどのくらいの暗黙知が埋蔵しているかを把握しつつ、それを文章化していくことはそこまで難しくはありません。
例えばナレッジを持っていない人、手順書を一読しただけの人などとベテランとが質疑応答を重ねていくうちに、やがてFAQ形式の「知識のネタ帳」のようなものができあがります。それを時系列、あるいは大~小の粒度に並べ直すなどの整理をしていく過程で、何らかのアウトプットを作ることができるでしょう。
ただ、これを業務と並行して手書きのホワイトボード、メモ帳、メールなどで行うのは大変に手間のかかる作業ですから、ベテランの方々がノーミス&フル稼働前提の短期的成果を出しながら若手に伝授するというのは現実的ではありません。ですが、今はナレッジを手順書に落とし込むためにCOCOMITEのような効果的なソリューションがあるので、これを活用しない手はありません。
■ナレッジ伝授に役立つソリューション COCOMITE とは
コニカミノルタジャパンのオンラインマニュアルソリューションCOCOMITE(ココミテ)。その価値は、単なる “手順書の電子化” だけではありません。一番の特長は、作りやすく見てもらいやすいこと。時系列で整理されたフレームワークのなかに、動画や写真、PDFなどの様々なメディアを組み入れながらサクサクと打ち込み、その場ですぐに手順書のたたき台を作ることができます。
例えば、ベテランの作業を見学し、質疑応答を通じて知識を体得した若手が、理解した業務を手順に落とし込んでマニュアルの原案を作成。その後、ベテランのレビューを受け、指摘やちょっとした修正を加えて作り込んでいくことでマニュアルを完成させていくことができます。常に最新版を公開しながらも、マニュアルの更新作業が可能。マニュアル同士の体系化やアクセス権管理などもでき、まさに社内ナレッジを共有し磨いていくことに特化したソリューションです。
COCOMITEが実際のお客様にどのように使われているのかについて、担当者へのインタビューを交えてご紹介するコラムを近日中に公開すべく現在準備中です。お楽しみに!
スピンオフコラム「オンラインマニュアルを活用した技術伝承と属人化解消は、いずれ来る世代交代への備えにも?」
2023年1月公開予定 Coming Soon…
また、「いくら知識をシェアする仕掛けを作っても後継者に学ぶ精神がないからやる気が起きない」というベテランの声も聞こえてくるかもしれません。確かに属人化のもう一つの要因として、その業務に従事する従業員自身の行動特性も考えられます。
パーソル総合研究所が行った2019年の調査では、アジアパシフィック地域における日本人の自己研鑽者率はワースト1位の結果でした。例えば読書、語学習得、資格取得などの自己研鑽活動について「特に何もしていない」という人が42.3%で、ほかの13か国と比べて断トツに多いということが分かっています。
これは多くの従業員が「今、組織内で自分に与えられる仕事をこなすだけで十分(もしくは精一杯)」と感じ、今日よりも明日の自分が成長しているために自身の知識やスキルを磨きたいというような意欲のある人が少ないのでは?というデータにも見えます。ただ、元来勤勉な日本人と言われていることを考えると、学びや新しい知識の習得に消極的な人種であるとは思えません。短期的な収益優先の社内風潮と学ぶべき人達の視野を狭くしている状況は、実は表裏一体ではないかと考えます。
まずは社内に人材育成やスキルアップが活性化するような動きができていくことで、従業員の行動特性は少しずつでも変わっていくでしょう。組織視点と従業員視点、問題を捉える視点は違っていても、両者には相関があると考えます。
【問題2・3の核心】従業員視点での「働きやすさ」と「働きがい」の喪失
【問題2】「新規採用人材獲得の困難化」、および【問題3】「従業員満足度を指標に激化する優秀な人材の取り合い」の核心は共通と考えます。自社を就職先として検討する人が減ること、現在いる従業員の離職率も上がって体制維持が困難になるという状況は、見方を変えれば自社で働くことに魅力を感じる人が少ないことを意味します。その要因として、まず「働きやすさ」と「働きがい」の2つの魅力が低いという問題について掘り下げます。
この「働きやすさ」と「働きがい」の2つは互いに相関を持ちつつも、要素としては全くの別物です。
- 働きやすさ:個々の従業員が持つ物理的・身体的な事情が、働く上での障害になりにくい環境があること
- 働きがい:その業務に従事することにより、従業員自身の現在や将来に対する魅力的な体験が得られること
料理で例えると、「働きやすさ」は食べやすさ、「働きがい」は味や栄養価に該当すると言えばイメージしやすいかと思います。食べやすく工夫しても、味が悪く栄養のない料理だとしたら、多くの人から好まれることはないですよね。
「働き方」も人事制度やITの導入によって「働きやすさ」を高めることはできますが、それだけで「働きがい」の向上まではカバーできないことは想像いただけると思います。この前提を踏まえて、働きやすさと「働きがい」とを分け、それぞれの要因を考察してみましょう。
「働きやすさ」向上のカギは働く人に合わせた柔軟な働き方
高齢化が進み労働人口が減少するこれからの時代、フルタイムで働き全国への転勤にも対応できる人は減少していくと考えられます。時短勤務というと、育児のイメージが強いかもしれませんが、今後は親の介護による時短勤務を望む人や転勤ができない状況にある人が増えていくでしょう。
これからは従業員個々、人の事情や特性を理解し、可能な限り最大限に発揮できる環境をつくることが必要です。
例えば、コロナ禍になってテレワークの導入を検討した際、多くの企業で労働時間の管理やコミュニケーションの課題が話題になりました。労働時間の管理については、決められた勤務時間で働くことができているか、オフィスへ出社して働く人も同様に時間の管理ができるかなどが課題となっていたと思います。
これらは容易に導入できるクラウドの勤怠管理システムを使うことで解決でき、人事規定に合った運用と情報の可視化もタイムカードなどより遥かに簡単かつ効率的に実現できます。また、部員の業務の進捗や、業務を進める上での相談ごとは、文字でも音声でも容易に把握することができるTeamsなどのオンラインのコミュニケーションインフラの導入で解決できます。
このように、世のなかには様々なITツールが存在するので、企業に合ったツールを積極的に活用し、働きやすく成果を出しやすい環境づくりを追い求めることがこれからの企業には必要だと考えます。この数年間にテレワークの本格導入をやむを得ず見送った企業では、その他の業務インフラの電子化とあわせ、テレワークやその他の「柔軟に働ける制度と環境づくり」を本気で考える時がきているのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。企業で働き続けるためのモチベーションの根幹とも言える「働きやすさ」と「働きがい」のうち、「働きやすさ」だけでもかなり根深い問題があると思われます。次回は「働きやすさ」よりもっと根の深い「働きがい」について本質に迫っていこうと思います。