最初に、なぜテレワークに特化した社内規程や運用ルールの策定が必須なのかについて確認しておきましょう。
テレワークは従来の働き方と比較して自由度が高く、個人裁量による部分が広くなります。経営者の一部には、育児、介護、病気療養中などの特別な条件を持つ社員の利便性を図る「福利厚生」のように捉えている向きもあります。
しかし、テレワークは福利厚生ではなく働き方改革の一環です。利便性の向上とともに、企業の生産性への寄与が重要な目的であることは間違いありません。自由で多様性のある働き方であっても、社内における業務と同様かそれ以上の成果が得られることを目指さなければなりません。
そのためには、社外で業務に当たる社員に対しても、しっかりと管理することが必要です。社員にとってもテレワークに則したルールがなければ、逆に働きにくさを感じることが考えられます。
さらに、企業は社員に対して業務遂行を課す以上、テレワークにおける安全性の確保や業務遂行のための環境提供の義務があります。社内規程やテレワークの運用ルールを定めることで、社員への義務を果たせるようになるでしょう。
テレワークは遠隔地で各社員が業務に当たるため、既存の社内規程では不足する要素が多いと考えられます。例えば、近くに上司がおらず細かな指示が受けられない、責任の所在が明確でない、業務環境が異なるため規程外の事態が起こり得るといった問題があります。
テレワーク実施において、規定が必要となる項目には以下のようなものがあります。
これらに関して不足する項目を加えるためには、就業規則の変更が必要となります。また、テレワーク実施時の評価制度を、新たに設定しなければなりません。
テレワークについての社内ルールは、就業条件など全てにおける決まりごとのため、就業規則の見直しが必要です。この前提を踏まえながら、就業規則の見直しとテレワーク規程策定の流れを見ていきましょう。
テレワークには、「在宅勤務」、「モバイルワーク」、「施設利用型テレワーク」(サテライトオフィス設置)の3つがあります。自社の現在の状況を把握した上で、現実的に可能であり業務遂行が確実にできるテレワークを検討します。
テレワークの対象者、対象となる業務、テレワーク勤務の頻度などを決めていきます。
テレワークを実施した場合、現行の就業規則を遵守できるか、できない場合どの程度の変更が必要かを確認します。また、変更内容を現行の就業規則に盛り込むのか別規程とするのかなどを検討します。
テレワーク勤務に関する規程を作成します。テレワーク勤務規程は就業規則本体に盛り込むのではなく、付則とするケースも多く見られます。
作成したテレワーク勤務規程を社内に周知し、要望や意見を募ります。不明点や疑問については開示し、社員で共有できるようにします。
社内の意見と照らし合わせ、テレワーク実施への課題があれば、改善に向けて再検討を行います。
テレワークを実施するにあたり勤務時間や体制などで、必要と思われる場合には労使協定を結びます。
テレワーク勤務規程を加えた就業規則を社内に周知します。
就業規則を変更した場合や、テレワーク規程を新たに作成して付則とした場合には、従業員が同意した旨を「意見書」として添付し、管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
国土交通省ではテレワーク導入の円滑化を図るために、「テレワーク勤務に必要な社内ルールづくり検証項目チェックリスト」を公表しています。(2021.02.現在)
資料を参考に自社の状況に合わせながら、漏れのないルール策定を実施していきましょう。
続いて、就業規則やテレワーク勤務規程に必要な内容について詳しく見ていきます。
テレワークに関連する就業規則や社内規定の項目は以下のとおりです。
以下の項目については就業規則の作成や変更、労使協定での締結が必要となります。規則として明記することで、テレワーク実施におけるトラブル発生を回避します。
テレワークにおいても、通常の社内業務と同じ労働時間が適用される場合には、新たな規程は必要ありません。テレワーク勤務導入に際して、「変形労働時間制」「フレックスタイム制」が適用となる場合には、就業規則の変更が求められます。また、就業規則に「事業場外みなし労働時間制」についての記載がない場合も、変更が必要です。
管理者の観察による評価が難しいテレワークでは、定量的な評価制度の採用が必要となります。テレワーク勤務の頻度によっても、適正な評価方法が変わります。
テレワークによって発生する通信費、業務環境整備のための機器類の費用、書類送付や文具など日々の作業で発生する雑費の負担の扱いについて明確に規定します。
テレワークで必要となる技能の習得、出社しないことで不足する情報の補てんなど、勉強会や研修会の開催を含めた社内教育について規定します。
テレワーク勤務規程で、特に考慮しておきたい項目を解説します。
テレワークは、在宅勤務以外にも様々な場所の利用が考えられます。対象者の業務内容によっては、テレワークの場所の制限を明らかにする必要があります。例えば、機密性の高いデータや個人情報を扱う場合では、カフェや図書館など公共性の高い場所や、公共の回線を使用不可にするといった規定が必要です。
テレワークの実施における管理ポイントの一つが、勤務時間についてです。具体的にどのようなツールを利用し、運用していくかを決定します。就業時の常時PC立ち上げ、勤務時間中はメール・チャットに即時対応するといったルールを決めておきます。また、出退勤時の報告をチャットや管理システム等で行うようにし、離れているからこそ増えがちな残業状況の把握もできるようにしておきましょう。
テレワークが認められる社員の対象範囲、申請可能な日数制限の有無、また、テレワークが認められない期間などを規定します。申請書類提出・フォーム・口頭での申し出など、テレワーク申請の具体的な方法や承認の裁量権、承認プロセスについても明確にしておく必要があります。
テレワークにかかる費用負担については、機器類の企業側からの有償・無償貸与、業務環境整備にかかる工事などの負担割合といった点にも配慮します。在宅勤務の場合には、私物との区別や、機器類・通信のプライベート使用との切り分けをどのようにするのかについても留意が必要です。
通信費及び情報通信機器の費用の項目でも負担の扱いを明確に規定することを述べましたが、社員に負担させる場合には、就業規則や雇用契約書に定める必要があることを、管理側では特に理解しておかなければなりません。
勤務態度が見えないテレワークの場合には、従来の評価制度で対応できない可能性があります。評価制度の見直しはどのような観点で行うべきでしょうか?
人事評価に関しては「人物評価」重視から「業務遂行到達度・業務の成果・業績評価」の成果主義重視に移行することが望ましいと考えられます。じかに接する機会が減ることで、管理側からは人材の能力が見えづらくなります。そこで、テレワーク導入後に目標管理制度に基づく成果主義を採用している企業も見られます。
評価の基準となる成果を可視化するためには、要求水準、納期などを明確にすることが大切です。客観的な基準を提示することが、社員からの不信感や不満を抑制します。
一方で単なる成果主義に偏りすぎると、業務遂行中の過程への評価がおろそかになり、テレワークをする社員のモチベーション低下につながりかねません。これを防ぐためには、評価する側のマネジメント力が重要となります。
適度にコミュニケーションを保ち、孤立感や分断されたという意識を持たせないような配慮が求められます。業務の進捗を図るために、できる限り多くの段階で接点を持つようにするといった工夫が大切です。
不公平感を排除していくために、評価項目・評価方法を統一し、上司によってばらつきが出ないようにすることも必要です。自社独自の手段では限界があると考えられるときには、人事評価一元管理システムの活用も有効な手段です。
就業規則や社内制度の見直しは、専門家のアドバイスがなければ難しい場合もあるでしょう。コニカミノルタジャパンは、TRIPORT株式会社と協業し、テレワーク導入に向けた労務管理などの課題解決の支援を始めました。TRIPORT株式会社が提供する「クラウド社労士コモン」 では、テレワークの導入を目指す企業に対し、ITサービスの提供だけでなく、人事や労務相談などができる環境を整えており、総合的に課題解決を支援します。これまでは、ITツールの導入、人事・労務制度に関する相談などを個別に手配する必要がありましたが、「クラウド社労士コモン」で一括して行えることで、迅速に環境整備ができます。社内に専門的な知識を有する人材が不足している場合には、活用をご検討ください。
テレワークにおける社内ルールの設定は、社員を縛り付けるために行うわけではありません。管理側にとっても社員にとっても、テレワークという働き方がより効果的に実施され、業務上のトラブルを回避することが目的となります。テレワークが持つメリットを十分に活かすためには、誰もが納得できるルールであることが大切です。そのためには、運用開始後も支障が生じたら、適宜修正を加えながら最適化を図っていく柔軟性が求められます。
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いいじかん設計 編集部
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