テレワークは、「ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。
これまで労働力減少、都市と地方の格差を是正する解決策として、テレワークは「働き方改革」「地方創生」を牽引し、個人にとってはワーク・ライフ・バランス、企業にとっては生産性向上、優秀な人材の維持・確保などを実現する手段として、様々な施策で普及推進が進められてきました。
「テレワーク・デイズ」もその一つ。本年開催される予定だった東京五輪開催における交通混雑への対策として行い、多様な働き方をレガシーとして築く働き方改革の国民運動です。「テレワーク・デイズ2019」(7月22日~9月6日)に参加した企業・団体数は2,887(前年比約1.7倍)、参加者数は約68万人(同約2.2倍)に上りました。
そして、今般の新型コロナ感染拡大で急浮上したのが、BCP(事業継続計画)対策としてのテレワークです。
テレワークは、自宅を就業場所とする「在宅勤務」、新幹線や空港などの移動中、カフェなどを就業場所とする「モバイルワーク」、所属するオフィス以外のほかのオフィスや施設を就業場所とする「サテライトオフィス勤務」があり、テレワークはその総称です。
このうち、新型コロナ対策のテレワークは在宅勤務が強く要請され、感染リスクを回避し、ソーシャル・ディスタンスを実現できる働き方となっています(※3)。
※3:自社・自社グループのサテライトオフィスや契約している共用型サテライトオフィス、帰省先などを許可している企業もあるが、感染リスクの回避の趣旨から基本は在宅勤務が中心となっている。
BCP(事業継続計画)とは、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」によれば「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」と定義されています。
日本では、2009年に策定された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」において在宅勤務は、BCP、パンデミック対策として、明確に位置づけられています。職場の感染防止策の徹底とともに重要業務を継続し、不要不急の業務を縮小・中止するため、人同士の接近を必要最小限にとどめる方策となっています。
すでに社内にテレワーク制度、ICTインフラを整備してきた企業は、「緊急事態宣言」が発出される2月頃より非常事態と受けとめ、全社レベルでテレワークに切り替え、対象者の拡大、実施頻度の拡大へと舵を切りました。
企業において、テレワークは働き方改革の一環として進められてきました。先頃リリースされた「緊急調査:パンデミック(新型コロナ感染対策)と働き方」(NTTデータ経営研究所/NTTリサーチ共同調査)<2020年4月実施>をみると、働き方改革について、2018年以前から取り組んできた企業は約3割、テレワーク/リモートワークは13.0%であったものが、2020年4月時点では、働き方改革は55.5%、在宅勤務は39.1%に急増しています。テレワーク/リモートワークに着目すると、毎月6.5%以上増加し、2020年1月まで(18.4%)と比べて倍増していることが分かります。
利用頻度の推移をみると、「ほぼ毎日」実施している人の2020年4月の状況をみると、1月と比較して約12倍に増加しています。そして4月時点の利用頻度は、週3回以上が5割を超えており、在宅勤務の定常化傾向が伺えます。
一方、テレワーク/リモートワークの利用ツールをみると、データやソフトウェアに外部からアクセスするツール(リモートデスクトップ方式、クラウドアプリ方式、VPN方式等)、電子メール以外のテキスト(文章)によるコミュニケーションツール(ビジネスチャット、LINE、Slack等)やオンライン会議ツールの利用が毎月増加しており、2020年4月の状況は、同年1月に比較すると約2倍になっています。
気軽なコミュニケーションができるツールや対面コミュニケーションの代替機能を持つオンライン会議ツールの利用が、急速に拡がっています。特に上位を占めるツールは、ビジネスだけでなくオンライン授業にも活用がはじまっています。
テレワーク/リモートワークの課題もあがっています。もっとも多かったのが「自分で管理することの難しさ」で4割超を占めています。「上司・部下・同僚とのコミュニケーション」「できる仕事には限界がある」「職場の様子が分からない」「社内の情報が確認しづらい」なども挙げられ、従来とは異なる仕事のやり方への戸惑いがみられます。
一方、仕事とプライベートの場所が同一であることから、「仕事とプライベートの区別がつかない」「運動不足」などの指摘もあります。
今後、感染拡大の長期化も懸念されるなか、情報管理、業務の効率化やコミュニケーションなどのルール化、ノウハウの共有とあわせて、ストレスマネジメントや自宅で続けられる筋トレなど運動不足への対応も求められます。
テレワーク/リモートワークの継続意向をみると、「現在と同じ頻度で利用したい」「利用頻度は増やしていきたい」とする「継続したい」割合は52.8%と半数を超えています。
その理由をみると、圧倒的に多いのが「通勤時間や移動時間を削減できる」が約8割を占め、「業務効率が高まる」「オフィスで仕事をするよりも集中できる」など生産性向上に関わる意見、「自由に使える時間が増える」「精神的な余裕が生まれる」「場所の選択肢が増えることで働きやすくなる」など、生活面でのゆとり、働きやすさの実感があがっています。
新型コロナの感染リスクを回避して人命を守る、企業のBCP(事業継続計画)を確保し、経済復興に導く。差し迫った社会課題の解決手段としてのテレワークの実践が拡がっています。
一方、仕事の性質上出勤が不可欠な人、ICTインフラ、労務管理制度やセキュリティー対策が進まないため出勤を余儀なくされている人、また、突然の強制的な在宅勤務に戸惑う人もみられます。普段から在宅勤務を実践してきた人も、長期化することで新たな課題も浮かび上がっています。生活と仕事が同一場所で行われることで、人生・生活における仕事の意味、組織における自分の役割・存在意義、リモート環境下でのチームビルディングの難しさ、など、様々な気づきがもたらされます。
新型コロナの終息後、テレワークが働き方、人々の生き方を変え、社会変革をもたらすのか。その新たな可能性に期待したいです。
「IDEA SHOWROOM」では働き方改革の課題を解決するソリューションをご覧いただけます。テレワークが気になるお客様向けのおすすめ見学コースもご用意していますのでお気軽にご覧ください。また、中小企業での働き方改革やテレワークの取り組み事例を「いいじかん設計 動画カタログ」でご紹介中です。こちらもあわせてご覧ください。
文責:小豆川裕子(日本テレワーク学会副会長、日本テレワーク協会アドバイザー)
常葉大学 准教授
博士(学術、東京大学)、修士(経営学、筑波大学)
NTTデータ、NTTデータ経営研究所等を経て現職。
1990年代後半よりテレワーク、ワークスタイル&ワークプレイス分野、知識資産経営等の実証および政策研究に従事。総務省、国土交通省、厚生労働省等委員、テレワーク月間実行委員会副委員長他を兼務。テレワーク関連の著書・論文多数。
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