「心理的安全性」は、個々の従業員がそれぞれの力を十分に発揮するために提供されるべき環境です。心理的安全性が提供されていない場合、従業員は何らかの不安を抱え、結果的に業務成果の低下や企業に対する不信感へとつながり、企業活動への悪影響が懸念されます。
今回は心理的安全性の基本的な考え方と重要性、高めるためのポイントについて解説します。
はじめに心理的安全性の基本的な知識、注目される背景を解説します。
心理的安全性とは、「サイコロジカルセーフティー(psychological safety)」の和訳で、ハーバード大学の組織行動学者エイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。
心理的安全性はチーム内における個人のあり方に関して定義したもので、「チームにおいて、ほかのメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは、対人関係のリスクをとっても安全な場所であるとの信念がメンバー間に共有された状態」であるとされています。
心理的安全性が確保されている場合、チーム内において個人の考えや発言が拒絶されたり、発言や行動によって罰を受けたりすることがないとメンバー全員が確信しています。その結果、自分らしくあることによってリスクを生じないと認識しているので、個人の発想をチームで共有しやすくなります。
例えば、知っていて当然と思われるごく初歩的な質問や、突飛に思われるアイデアなどを口にしても軽んじられたり、疎外されたりするといった状況にならないことが確信できる状態であれば、言動を控えずにアイデアを提案することができます。
一方、心理的安全性が低い職場には、以下の4つの不安が存在するとされています。
心理的安全性は、Googleが実証実験で「チームの生産性向上の最重要要素」と位置づけたことから注目を浴びました。この検証では4年をかけて社内調査を実施し、「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」という結果を得ています。
その結果からは、心理的安全性が高いほど、「離職率が低い」「メンバーから提案されたアイデアが上手く活用されている」「マネージャーによる評価の機会が多い」「高い収益性に関与している」という傾向があると分析されています。
リクルートマネジメントソリューションズによる「職場での『心理的安全性』に関する実態調査」でも、心理的安全性とチーム成果には相関関係があると見られています。以下は心理的安全性の高い特徴を示す項目です。
また、コロナ禍を通じ一般企業でもテレワークが浸透したことで、心理的安全性が確保しづらくなったことも背景として考えられます。
テレワークをすることで会議や打ち合わせもオンライン開催となり、「発言のタイミングが分からない」「周囲がどのような気持ちや雰囲気で会議に臨んでいるか見えないため、的外れな発言にならないか不安を感じる」など、リアルな現場以上に発言が難しいというケースも見られます。
コニカミノルタジャパンのアンケートでも、若手ほど発言しづらい状況であることが分析できました。
根本的な課題としては、日本特有の文化や慣習が心理的安全性に関わる要因となっていることも挙げられます。海外に比べて、忖度や年次、立場によって発言を控える傾向が見られ、「若輩の身だから」「このような発言は失礼かも」「身をわきまえていないと思われる」などと考える人も多いのではないでしょうか。
かつて美徳と考えられてきた言動を控えるという姿勢が、現代企業においては組織内で不安を抱かずに発言することの難しさにつながっているとも言えます。
心理的安全性の低さが及ぼす課題・問題点と、対策することの重要性について解説します。
気軽に発言できない状況下では、「聞けない」「伝わらない」ことによるミスやトラブルを誘発するリスクがあります。自信を持てない状況で業務を続けると個々人のパフォーマンスの低下につながり、意思疎通が阻害されることでチームによる業務にも支障が出る恐れがあります。
自由闊達な意見の交換がなされない環境からは、イノベーションが生まれにくく、新たなビジネスの機会を逃している可能性もあります。
心理的安全性の低い職場では、貢献感も生まれにくいため、企業の求心力低下から離職増加につながる場合もあります。従業員に覇気がなく不安気な様子が外部に伝われば、採用活動に悪影響を及ぼします。
能力が発揮できない不満、生産性の悪さの悪循環から人材が定着しづらい状態を放置すると、恒常的な人手不足に陥る恐れがあります。
心理的安全性が確保されない職場では従業員満足度の低下を招き、企業への信頼度や帰属意識も低下します。そうなると、社内の雰囲気や接客態度にも現れるようになるでしょう。もし、来訪者に企業内の雰囲気の悪さが伝わると、社会的な評判を落とす原因となります。
心理的安全性の欠如により従業員の意欲が失われると、業務品質が低下し、取引先や顧客などとの関係が悪化することも考えられます。
こうした状況を回避するために、心理的安全性確保への対策は企業にとって重要課題だと言えるのです。
心理的安全性へ大きく影響する職場づくりのポイントを紹介します。
日常的に相互的な会話がなされており、円滑なコミュニケーションが図られている状況が心理的安全性向上の基盤となります。世代間や雇用形態による溝をなくすことで、平等な発言の機会を与え、恐怖感やためらいを払しょくします。
正当な評価・承認が得られていると感じられれば、業務に対して自信を持てるようになります。マネジメントする側においては、減点ではなく加点での評価を行うなど、マネジメント手法にも工夫が求められます。従業員にとっては、「見てもらえている」実感を与えることで孤立感が薄れ、組織内での居場所を獲得することになります。
課題に対して全員で向き合う姿勢により、問題を一人で抱え込まず開示できるようになります。相互的なフォローができるチームは、関係性が強化され、業務遂行にも大きな力を発揮します。
安心して業務に取り組める環境を提供するためには、福利厚生の充実も有効策です。コミュニケーションを創出する工夫やストレスを解消できるリラックス空間の整備など、従業員の課題に向き合う姿勢を示します。
従業員の問題として任せてしまうのではなく、企業全体がコミュニケーションの活発化を進め、風通しの良い企業風土をつくっていくことが大切です。社内コミュニケーションの活発化については、以下の記事で詳しく解説しています。
心理的安全性を高めるための具体的な方法を紹介します。
・学習の場を提供する:相互理解のベースとなる、多様性についての研修を実施するなど、組織としてのあり方を考える場を設けます。
・チーム編成の組みなおしを柔軟に行う:多くの意見に触れる機会の創出、なれ合いや長期化による人間関係の複雑化を回避することを目指します。
・上層部への進言が可能となる仕組みをつくる:個人が声を上げやすい仕組みを提供します。例えばSNS、目安箱などを活用し、直接的な提言を可能とします。
・ピアボーナス制度の実施:感謝の気持ちを送り合うシステムをつくることで、日常的な些細な行動に対しても評価が得られるようにしていきます。
・オフィスデザインの工夫によるコミュニケーションの円滑化、チームワーク向上:個人としても、チームとしても働きやすい環境を提供します。
具体的な事例として、コニカミノルタジャパンの「つなぐオフィス」のレイアウトが挙げられます。取り組み内容については以下をご覧ください。
・マネージャー層への教育:コーチング技術向上の学習、マネジメント研修など、心理的安全性を向上させるための指導や管理方法を学びます。
・マネージャーへのフィードバック:部下からの評価システムを確立し、双方向で意見を出し合える体制を整備します。
・1on1の定期的な実施:本音を言い合える関係性を築くための場を積極的に設けます。
・ゴールの明確化:全員が何に向かって取り組んでいるのかを、常に共有・意識できるように図ります。
・こまめなフィードバック:良い・悪いに関わらず、お互いに当事者意識をもてるようなフィードバックをし合います。
・業務サポートの体制づくり:新人フォローだけでなく全ての層のニーズを支援し、孤立させない取り組みを考えます。
・プロフィール情報の共有:メンバー同士でどのような経験・スキルの保有者なのかを相互に理解・把握できるようにしておきます。
・オフサイトミーティング、飲みにケーション、シャッフルランチなど:お互いの距離を縮めるための場を設けることに対して、企業側が奨励・サポートします。
・ワークショップ・季節イベントの開催:コニカミノルタジャパンの事例
コニカミノルタジャパンでは2022年にコミュニケーション活性化イベントと題して、ハロウィンイベントやクリスマスイベントなどを開催しました。
・フリースペース・社内カフェの設置:会話が自然に発生するような仕組みづくりの一環として、共有スペースを整備します。
・オンラインツールやSNS導入によるコミュニケーションの活発化:多様な働き方をする従業員同士を結び付けられるよう、社内外を問わずコミュニケーションの密度を上げられる環境を提供します。
・心理的安全性の測定:自社の状況を客観視しながら課題を見出すために、定期的な測定を実施します。
・匿名で悩みを相談できる体制づくり:チーム内では話しづらい悩みも一人で抱え込ませないために、第三者的な立ち位置にある相談場所を設置します。
心理的安全性とは、従業員一人ひとりが惜しみなく能力を発揮する上で必要不可欠な条件です。周囲の反応に不安を覚え、思うように発言や行動ができない環境は、アイデアの発露を抑え、イノベーションの芽をつむことになります。心身ともにのびのびと働ける職場づくりは、企業発展へのベースです。心理的安全性についての理解を深め、個々とチームのパフォーマンスを最大化できる企業体制を整備していきましょう。
いいじかん設計 編集部
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