「将来の日本は少子高齢化により市場が縮小していくけれど、従業員数も減少していくとしたら、ちょうど釣り合いが取れて良いのではないか?」という発想も一瞬頭をよぎるかも知れません。いわゆる「縮小均衡」に基づいた考え方ですが、実際はそんなに簡単にはいかないでしょう。その大きな要因の一つ目は、第2回のコラムでもご紹介したように、従業員の高齢化と退職による知識の流出です。事業を回す上で核となる人達がノウハウとともに引退していってしまうため、現在の半分の人員で半分の売上を作ることもできなくなっている可能性が高いでしょう。単に人数の話だけではないのです。
もう一つは、間接部門の非効率化によるコスト増です。従業員数や売上が現在の半分になったとしても、給与厚生や経理の業務、社用車の管理、建物の賃料、光熱費、修繕費など、様々な業務がきれいに半分になることはありませんし、売上に左右されない固定費もあります。これらの問題を解決しない限り、企業内で上手くやりくりして利益を出しながら縮小均衡を成し遂げることなど不可能でしょう。
以下は日本国内の企業数の推移です。バブル経済崩壊後からすでに減少の一途を辿っています。では、それらの企業はどのようにして減少しているのでしょうか?要因を調べてみると、倒産件数については2万件に迫る勢いだった2000年前後から比べれば、近年は1万件~5千件程度に落ち着いていました。その一方で、休廃業・解散をする企業数は年間4万件を超えるレベルで、むしろ微増傾向になっていました。
出典:中小企業庁「2020年版 中小企業白書」を基に作成また、以下のグラフの通り国内企業のM&A件数も確実に増え続けています。近年は大手企業同士の合併をよく耳にするようになりましたが、国内全体の傾向にも沿った動向と言えるでしょう。
つまり、今の日本では、バブル崩壊直後のような急激に到来した不景気で資金繰りができずに倒産するケースではなく、中長期の経営のなかでの慢性的な事業性の悪化や後継者不足などの理由により、計画的に廃業もしくは身売りする企業が増えていると考えられるのです。
成長期の日本では、多くの国内企業は商品開発力や販売力を武器に、競合同士で熾烈なシェア争いをしてきました。その過程のなかで、例えば販売地域や顧客セグメント、あるいは微妙な商品ジャンル分けが誕生し、棲み分けが行われて来ました。そして、バブル経済崩壊後から現在に至るまでも、人口1億人を超える日本ではその棲み分けが維持され、衣・食・住・娯楽どれをとっても膨大な品種のなかから消費者が好きなものを選べる豊かな市場が現存しています。ただ、その状況が今後も続くとは考えにくいのです。
例えば人口が日本の約20分の1である北欧のノルウェーでは、加工食品や生活家電など、皆ほぼ決まったもののなかからしか選べないようなことが当たり前の社会のようです。
2030年の日本の市場が急にノルウェーのようにはならないでしょうが、今後、国内商品のカテゴリーやジャンル分けがシンプルになり、購入者の選択肢が減っていく傾向は十分にあり得ます。このままでは、「日本より東南アジア諸国の方が充実した買い物ができる」という時代も、もしかしたら来るかもしれません。
このような過酷な未来が到来するかもしれないことを、その理由や背景とともにご理解いただいた方のなかには、自社でまだ何も対策を打てていない・打たれていない状況を見て、現経営者に対する不満や憤りを抱く方がいらっしゃるかもしれません。しかし、現経営者もすでに不確実で過酷な経済の渦中にあり、投資判断や新規チャネル開拓など、“今”直面している課題を乗り越えるために必死な方も多いでしょう。
そして、これまでに挙げた悲観的な未来が現実のものとなるかもしれない10年後、20年後には、多くの経営者は引退しており、その後継者として会社経営を担い2030年以降の経営課題に直面するのは現在30代~40代後半、すなわち現在の中堅層の方々です。その頃に、自社の勝ち筋を見出し、ほかの国内企業を併合して事業を推進している企業となるか、事業継続のための資源や推進力が不足しほかの国内企業に吸収合併される企業となるか、あるいは海外資本に買収され、技術を抜き取られて何も残らない状況になって廃業してしまうか…。
2030年問題を迎える国内で自社がどのような企業になっているのか、その明暗を分けるのは未来を託されている人達のこれからの選択と行動である、ということは間違いありません。
この連載コラムの第2話および第3話では、日本企業に起こり得る5つの問題を挙げました。どんなにIT技術やAIが進化したとしても、日本の政策が大きく変わったとしても、残念ながら、これらの問題を一挙に予防するような「特効薬」は存在し得ないと考えます。
なぜならこれら5つの問題点は、その背景にあるいくつかの要因が複合的に絡み合っているからです。しかしそうだとすれば、それぞれの問題の根源として潜む要因、すなわち「核心」を捉えて丁寧に考察することで、「その問題がなぜ起こり得るのか」と同時に、それらを防ぐための解決の糸口も見えてくるでしょう。
これら3つの核心はまた、それら同士がニワトリと卵のように相互に因果関係を持っています。次回コラムでは、これら一つひとつを丁寧に解きほぐし、解決アプローチについて皆様と一緒に考えていきたいと思います。
働き方に関する最新の取り組み情報をお届け!
最新コラムの更新もお知らせします。
いいじかん設計 編集部
前回のコラムでは、労働人口減少というマクロトレンドのなかで日本国内の企業に起こり得る、人材の高齢化と新...
2019年末から新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界は大きな混乱をきたしています。いまだ収束が不透...
高齢化社会といわれる日本ですが、中小企業の経営者も例外ではありません。後継者不足が原因の倒産が過去最多...