公開日2023.11.15
株式会社真興社がDX時代の経営で取り組む
プリプレス工程の利益率向上と生産工程の見える化とは?
企業が事業の永続性を維持するためには、ヒト・モノ・お金・時間といった「目に見えない経営資源」を見える化し、自社の強みを整理しながら経営判断を行っていくことがとても重要です。
100年以上専門書の印刷事業をされている株式会社真興社 代表取締役 福田真太郎氏は、DX時代の経営にいち早く向き合い、プリプレス工程の利益率向上と生産工程の見える化に尽力されてきました。
これまで不透明だったDTP作業時間や校正回数を可視化することで、作業コストに対する正当な価格交渉を実現、発注側のお客様の意識も変化してきました。また案件ごとの利益率や仕事の成果がきちんと見える化されたことで社員のモチベーションアップややりがいにもつながっているといいます。
本記事では、福田氏が印刷事業経営で抱えていた課題に対し、どういった取り組みを行ってきたかについて詳しくお話いただきます。
なぜプリプレス工程の見える化なのか? 真興社が抱えていた経営課題とは
創業から100年以上、専門書の印刷が主力事業
株式会社真興社(以下、真興社)は代官山にある印刷会社で、医学関連書籍など専門書の印刷を行っています。社員数は70名弱。編集・組版・デザインから製版・印刷・製本まで、専門書の編集ノウハウと自社内の一貫生産が強みです。
またデジタルを活用した印刷工程の自動化にもいち早く取り組み、2009年にはシカゴで行われた国際印刷生産革新賞(CIPPIアワード世界大会)で優勝(2冠)もいただきました。
社内で発生していた問題
真興社が取り扱う専門書の仕事は平均300ページから1000ページ程あり、出版社から受注して納品するまで最低でも1年、長い場合には3年もかかります。
組版後の校正では赤字もバタバタと戻ってくるため、作業管理の伝票を書いていても分からなくなってしまうのが課題でした。いったいこのDTP作業時間でいくら儲けているのか、本当の原価が分からない。そこをきちんと把握しなければいけないと考えました。
そこで我々がプリプレス工程の見える化のために活用したのが、コニカミノルタのNeostream Proです。他のシステムも色々とありましたが、3年の長期に渡る制作作業における細かい原価管理を続けられたのがNeostream Proでした。
プリプレス工程管理と原価管理の目的
大前提として、印刷会社は仕事の前に価格が決まってしまっている
仕事の流れとして1番最初に「見積もり」があります。そのため仕事を始める前に値段が決まってしまっており、印刷会社には価格の決定権がありません。
ところが、実際に仕事を進めていくと度重なる修正や隠れているコストも多く、思ったような利益が得られないという状況が発生します。それにも関わらず、どの作業にどのくらいコストがかかっているか不明なため、正当な請求ができない状況でした。
分秒単位での工数把握により、清算見積もりや価格交渉が可能に
口頭だけの説明ではお客様を納得させる価格交渉はできません。どの作業にどれだけのコストがかかっているかをきちんと説明できる清算見積もりや資料が必要でした。
Neostream Proでは作業時間の管理が分秒単位で分かるため、お客様に対して実際にかかった作業コストを説明でき、正当な価格交渉ができるようになりました。相見積もり社会で非常に安い値段で仕事を取ってこなければいけない現状において、これは非常に役立つ仕組みです。
こうしたプリプレス工程管理は、真興社が進めていたデジタルによる生産管理システム構築の一環でもありました。
いち早くデジタルによる生産管理システムの構築に着手
目指したのは社内のネットワーク化による「全体最適」
真興社では1990年にDRUPAで発表された「The PECOM」構想をもとに、効率的生産を目指して社内のネットワーク化をいち早く進めてきました。1996年から現在に至るまでデジタル化による生産管理システムの構築を推進し、さまざまなステップを経て、現在は生産工程の見える化を完成しています。
これにより機械それぞれの単独管理ではなく、ネットワークをつなぐことによる機械同士の工程~着手~完了を「群管理」することができます。Neostream Proを活用したプリプレス工程管理もこの一環で、2005年にDTP部門に導入しました。
生産管理システム構築の流れ
STEP 1 | 全ての印刷機を同じメーカー・同じサイズに統一する(Print Sapiens) |
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STEP 2 | 全自動化された印刷機にする |
STEP 3 | 品質管理装置付きの印刷機にする |
STEP 4 | 印刷版・咬寸法を同じサイズに統一する |
STEP 5 | 印刷・刷版工程まで完全デジタル化する(CTPからPPFデータ) |
STEP 6 | 制作・DTP部門もCIP4/JDFネットワーク化する(Neostream Pro導入、間接経費の削減) |
STEP 7 | 生産管理部・プリプレス部門をCIP4/JDFネットワーク化する |
STEP 8 | 後加工部門を含めた全部門をCIP4/JDFネットワーク化する |
生産管理システム構築後の管理体系
こちらが真興社の現在の管理体系です。まずPrint Sapiensで見積もりをとり、受注をします。受注をした際にJDFを発行し、コニカミノルタのNeostream Proに登録します。
Neostream Proでは仕事の納期を登録したり、進捗状況の確認や作業担当者の権限付与を設定できます。またDTP作業時間を各行程別にトータルで可視化できるため、どこで何回赤字が発生しているかもすぐに分かります。下記の図2のように、何度も再稿・念稿の赤字を繰り返していることが儲からない原因です。
我々のような年単位での仕事では、従来よく使われている紙の作業伝票では保管する量も膨大になり、集計に手間と時間もかかります。それがNeostream Proでは、年単位のデータも5分くらいで集計することができます。こうした原価計算結果をしっかり作ることで、最初の見積もりに対して赤字になっている仕事を明確にでき、実際にかかったコストをお客様に相談することが可能になります。
発注側のお客様の意識も変わる
明確な資料をもとに交渉したとはいえ、最初に提示した見積もり金額を変更していただくのは容易ではありません。しかし、お客様が認める・認めないは別として、こうした交渉を続けていくことがとても重要です。
お客様に対し作業コストの可視化を繰り返していくことで、お客様との対話を生み、清算見積もりや正当な価格提示がだんだんと認められてくるようになってきました。
DX時代の経営に向けて
「生産工程の見える化」というのは、どこで問題が起きているかが分かるということです。問題が分ればそこから解決策が生まれます。解決策が生まれることによって、モチベーションも上がっていきます。
現場は、社長の独断ではなく正当な評価を求めています。真興社では生産管理システムによって、何をやっているかということがきちんと第三者視点で可視化されます。それが正当な評価や現場のやりがいにもつながっていきます。
さらに生産管理システムの構築によって、テレワークも可能になりました。家族の転勤や出産・介護など社員のライフステージが変化していく中、技術をもったスタッフの雇用を維持するうえでテレワークは非常に重要になってきています。
我が社がやっていることは、隠すことはありません。メーカーの機械や製品を買っているだけです。他の印刷業に携わる皆さんにも同じことをやっていただけるんです。
- 福田様、ありがとうございました。
コニカミノルタでは引き続き、印刷ビジネスDXを通じて印刷会社の生産性向上や利益率改善、環境配慮への対応など印刷業界の発展に貢献してまいります。
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