更新日:2023年3月9日 2021年10月8日
【図解】ブランディングの目的とメリット、またその実践方法とは
アフターコロナを勝ち抜くための有効な戦略として浮上した「ブランディング」というキーワード。 競合他社との差別化が図れるだけでなく、自社の目的確立と従業員への理解浸透、さらには近年注目を集める社会貢献と利益の両立までも可能にするブランディングは、これからのビジネスにおいてより大きな力を持つようになります。そこで今回は、ブランディングの詳しい考え方と具体的な手法について、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 代表理事・岩本俊幸氏に話を聞きました。
ブランディングとは?またブランディングを行う目的
社員を本気にさせるブランド構築法によると、“ブランドとは、キャッチコピーやロゴマーク、あるいはブランド名そのものでなく、その商品が提供する価値、さまざまなブランドを構成する要素(ブランド要素)や、ブランドとのコンタクト体験(ブランド体験)とが複合的に結びついて、消費者・顧客の心の中で作り上げられる「心象」のこと。 ブランディングとはこの消費者・顧客が作り上げた心象と、企業が製品・サービスによって提案したいブランド独自の価値(ブランド・アイデンティティ)を近づけ、一致させる活動を指す。”としています。
もう少しかみ砕いてブランディングを定義するなら「価格競争に巻き込まれずに少しでも高く、少しでも多く、自社の商品やサービスをお客様に買っていただくことで、企業の利益を増やし、長期的に経営を安定させるために行うもの」となるでしょう。
つまり、ブランディングの目的は企業の経営に資するものです。当然、ブレない一貫性や持続性が求められます。とは言うものの企業の経営は浮き沈みが付きものですし、私自身もそうですが経営者は時に「飽き」などにより変化を選択しがちです。
しかし、より強固なブランドを確立するためには顧客に対する約束は決して変えてはなりません。なぜなら、その行為は自社を好意的に思ってくれていた顧客に対する裏切りになってしまうからです。
消費者・顧客心理におけるブランド想起のプロセス
では、ブランドを消費者・顧客に意識させるにはどのようなことに気をつける必要があるでしょうか。
企業側が発信するさまざまなコミュニケーション活動に対して、消費者・顧客は次の「ブランド再認」と「ブランド再生」という2つのプロセスによってブランドを想起します。
- ブランド再認:ブランド要素※に接した際に、ブランドを思い出すこと
- ブランド再生:ニーズが発生した際に、ブランドを思い起こすこと
どちらのプロセスを経るにしても、前提として消費者・顧客がブランドに対する知識を持っていることが必須となります。
なお、ブランド再認ではブランドに対する知識があるだけの状態なので、消費者・顧客の購買行動にはつながりにくい傾向にあります。そこで、購買行動につなげるためにはニーズと結びつくブランド再生を目指す必要がありますが、消費者・顧客はブランドに対しての知識がない状態でニーズと結びつくことは難しいといえます。したがって、ブランド再生のためには、ブランド再認ができることが条件となるのです。
※ブランド要素…他の商品・サービスと区別する手段。ネーミング、ロゴ、キャッチコピーなどがある。
ブランドがもたらすメリットとは
では、ブランドがもたらすメリットについて考えてみましょう。ブランドには大きく分けて、企業にもたらすメリットと消費者・顧客にもたらすメリットがあるといえます。
ブランドが企業にもたらすメリット
さまざまなメリットを提供するブランドですが、その働きは実は、それを提供する企業にとっても多くのメリットをもたらすものです。
例えばこれまで日本の伝統的な企業では、社内レクリエーションなどの各種イベントや社内報、社内研修といった一連の組織活性化施策を実施してきました。
これらの企業から社員に対する働きかけ(社内コミュニケーション)は、今日においてはブランドの構築や全体的な経営戦略の徹底、コーポレートガバナンス、ブランド・イメージ低下のリスクの防止といった観点から積極的に導入されています。
つまり、社内でブランドの価値観を共有化し、社員の意識や行動をブランドの方向性と合わせていこうという全体的な取り組みです。
これらの社内向け(内向き)のブランディングは「インターナルブランディング(インナーブランディング)」と呼ばれ、消費者・顧客に対する外向きのブランディングである「エクスターナルブランディング」と一対となってブランディングを構成しています。
ブランドが消費者・顧客にもたらすメリット
一方、消費者・顧客に提供するメリットとして最初に思いつくのが「探索コストの低減」です。
例えばあなたが出張などで見知らぬ駅に降り立ち、時間をつぶすためにカフェを探すとします。そこで、名前も聞いたことがないカフェではなく、「スターバックスコーヒー」や「ドトールコーヒー」などの認識している店を選ぶことは、ブランドが提供する「探索コストの低減」というメリットを知らないうちに享受しているのです。
一方、ブランドには「リスク回避」というメリットもあります。
消費者・顧客は新しい商品・サービスを購入する際、さまざまなリスクを回避しようとします。例えば美容室を探す場合であれば、「自分に合ったヘアスタイルに仕上げてくれるだろうか?」(機能的リスク)、あるいは「価格に見合ったサービスを提供してくれるだろうか?」(金銭的リスク)など、さまざまなリスクについて一つひとつ検討するでしょう。しかし、「あの美容室なら安心してお任せできる」という確固たるブランドが形成されていればこれらのリスクはすべて回避できるのです。
このほかにもブランドが消費者・顧客にもたらすメリットとしては「価値の獲得」、「自己イメージの投影」などが挙げられます。なお、ブランドによってもたらされるメリットは、製品・サービスの機能的価値と情緒的価値という2つの価値によって形成されていることも覚えておきましょう。
購買行動における消費者・顧客のリスク
ブランドのメリットの一つにリスク回避があるとお伝えしましたが、どのようなリスクがあるのか知っておくとよいでしょう。そこで、ケビン・レーン・ケラー「戦略的ブランド・マネジメント」より、購買行動における消費者・顧客のリスクを抜粋しました。
機能的リスク | 購入した商品が、購入者が期待した機能を果たさない。 |
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身体的リスク | 購入した商品が、使用者や周囲の人々の健康や身体に危害を加える。 |
金銭的リスク | 購入した商品の提供する価値が、支払った価格に見合わない。 |
社会的リスク | 購入した商品が、社会的な迷惑をもたらす。 |
心理的リスク | 購入した商品が、使用者の精神・心理に悪影響を及ぼす。 |
時間的リスク | 選択の失敗などにより、他商品を探索するという機会費用が発生する。 |
ブランドを構築するための8つのステップ
ブランドの重要性や目的をご理解いただいたところで、ここからはどのようにブランドを構築していくべきなのか、という点にフォーカスしていきたいと思います。
ブランド・マネージャー認定協会によるブランド構築ステップには8つのステップがあります。
「環境分析による市場機会の発見」から始まるこれらは、一般的なマーケティングのステップをベースに独自性の抽出やマインドシェア※を獲得するためのフレームワークを統合することで、業種業態、企業規模を問わずに使用が可能になっています。
実際のブランディングに際しては、「自社のブランドが消費者・顧客からどのように思われたいか?」を具体的に定義する「STEP5 ブランド・アイデンティティ(の策定)」を目指すことが、最初のマイルストーンとなります。
※消費者・顧客の心に占める当該ブランドの占有率(シェア)
◆ブランドを構築するための8ステップ(詳細)
環境分析による市場機会の発見 | 外的環境に潜むプラス/マイナス要因を分析する「PEST分析」と、競合との差別化ポイントを探る「3C分析」というマーケティングの基本ツールを用いて市場機会を発見する。 |
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市場細分化 | 3C分析で仮説を立てた事業発展はどのような市場で可能なのか、収益を期待できる市場を探し当てることを念頭にさまざまなセグメントによって市場を切り分ける。 |
見込み客の選定 | 前STEPで細分化した市場から、自社の事業または製品・サービスを、最も評価してくれる見込み客を選定。選定後は、属性群をまとめた「属性リスト」を作成する。 |
独自性の発見 | 前STEPで作成したペルソナ(属性リストから具体的にした仮想の人物像のこと)の視点に立ち、彼らに競合と比較されても自社が優位なポジションに立つためのマップを作成する。 |
ブランド・アイデンティティ | 前STEPで見出された自社の「独自性」を端的な言葉で表現したもの。自社がブランドとして、ターゲット(ペルソナ)にどう想起されたいかという旗印となる。 |
具体化 | 4P、4Cのフレームワークを対応させ、自社の製品・サービスに関わる情報を企業視点と顧客視点の両方から整理し、独自性を強化するための分析を行ったり、具体化戦略を練る。 |
刺激の設計 | STEP5で策定したブランド・アイデンティティに基づいて、「ブランド要素」と「ブランド体験」を設定し、見込み客に購入を促すまでのフローを構築する。 |
目標設定 | 「3C分析」「STPマーケティング」で設定した顧客(市場)と「ブランド・アイデンティティ」から判断して、いつまでに、どのくらいの実績を目標とするのか明らかにする。 |
【事例】企業理念を体現したブランディング戦略
コロナ禍で多くの企業が経営に苦しむ中、ブランディングを武器に逆境に挑む企業も存在します。長野県茅野市の建設会社、株式会社イマージもそんな企業のひとつです。店舗建築をメイン事業とするイマージですが、「元気なまちの創造」という企業理念を象徴するかのようにその事業は地元に複数構える自社店舗の経営から地元企業のブランディング支援まで多岐にわたります。
そんなイマージがコロナ禍真っただ中の2020年5月に起こしたアクションが、フリーペーパーの創刊でした。 『イマジン(IMAGE MAGAZINE)』と名付けられた小冊子は、B5判×8ページ相当という読み応えのあるボリューム感で、紙面にはイマージが店舗建築を手がけた地元の店舗や企業で働く人のインタビュー記事やエッセイなどがたくさんの写真とともに誌面を彩る一方、イマージの会社としての紹介はほとんどありません。
一見しただけでは建築会社のフリーペーパーとは思えないこのコミュニケーションツール誕生の背景には、イマージの「こんな時だからこそ、まちを元気にしたい!」という思いがあります。
これはまさに企業理念を体現するものであり、ブランディングのセオリーである理念からコミュニケーション戦略まで一貫して行っている理想的な事例と言えるでしょう。
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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 株式会社イズアソシエイツ 代表取締役 岩本俊幸 |
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