在宅勤務の導入に向けた就業規則改定とは?作成手順や注意点を詳しく解説
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2020年は、厚生労働省の助成金制度である働き方改革推進支援助成金に「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」が設けられ、在宅勤務を促進する動きが強まりました。以前から、在宅勤務は多様な働き方の実現のために推奨されていますが、社内体制の整備が追いつかず、実施できずにいる企業も少なくありません。
在宅勤務の導入では、実施に伴う労働条件の変化に合わせて、就業規則の改定が必要となる場合があります。在宅勤務に関して、就業規則改定が必要となるケースや作成の手順、注意点などについて解説します。
INDEX
在宅勤務とは?
コロナ禍を受けて、テレワークという言葉が一般にも浸透しました。在宅勤務はテレワークと同じなのでしょうか。はじめに、在宅勤務の定義や基本的な考え方を確認しましょう。
テレワークと在宅勤務
日本テレワーク協会では、テレワークを「テレワークICTを活用し時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。在宅勤務は、オフィスに出社せずに自宅で業務を行う、テレワークの就労形態の一つです。
在宅勤務以外のテレワークには、社屋以外の施設を利用するサテライトオフィス、コワーキングスペース活用、カフェや移動中に行うモバイルワークがあります。
テレワークの実施例やポイントについては下記の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
在宅勤務の導入状況
コロナ禍以前より、働き方改革の推進を受けて、在宅勤務制度に目を向ける企業が多く見られていました。
公益財団法人日本生産性本部が2019年に実施した人事労務担当者への調査では、2018年の時点で調査に回答した上場企業の37.3%が在宅勤務制度を導入していました。この流れはコロナ禍を受けて、より全国へ拡大しました。
2020年6月に内閣府が公表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、全国で34.6%の人がテレワークを経験したと回答しています。
上述の日本生産性本部が2020年10月上旬に行った別の調査「第3回働く人の意識に関する調査」では、テレワーク実施率が5月調査時の31.5%から18.9%に低下しています。しかし同実施率は7月調査時(20.2%)からは大きな変化がないことから、テレワークが一定の割合で定着しているとも考えられます。
国は在宅勤務を含めた柔軟な働き方を推奨
国は一億総活躍社会の実現を目指し、多様で柔軟な働き方を推奨しています。在宅勤務を含むテレワークについては、以下のような有効性を示しています。
■少子高齢化対策の推進
減少する労働人口をカバーするためには、個々の能力を十分に発揮できる働き方が求められます。子育て・介護をする人や女性・シニア層などの就業機会の拡大が期待できます。
■ワークライフバランスの実現
通勤時間の軽減や拘束時間の短縮により、プライベートの時間の確保がしやすくなり、家庭生活との両立が容易になります。
■地域活性化の推進
地方在住の可能性が広がり、地域社会の活性化に貢献します。
■環境負荷軽減
通勤や業務に伴う移動の減少により、環境負荷が軽減されると予測されています。
■有能・多様な人材の確保と生産性の向上
通勤が困難な人にも採用対象が拡大し、人材確保の可能性が広がります。
■営業効率の向上・顧客満足度の向上
訪問に掛かる時間が軽減される事で顧客対応への時間が多く取れるようになり、営業効率や顧客満足度の向上に貢献します。
■コスト削減
オフィスの縮小化、縮小に伴う紙文書の電子化によりコスト削減の効果が期待されます。
■非常災害時の事業継続
オフィスの分散化により、災害時の事業継続やデータの保持が容易になります。感染症対策としても有効と考えられます。
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在宅勤務に関して就業規則が必要なケース
在宅勤務導入における、就業規則の改定について解説します。
就業規則を定めるべき理由
在宅勤務を導入しても、通常勤務と全く同じ労働時間や労働条件を適用できるのであれば、既存の就業規則を改定する必要はありません。
しかし一般的には、オフィスではすでに労働環境が整い、役割分担も定まっていますが、在宅勤務ではそうではありません。在宅勤務をすることにより従業員に負担が発生する場合や、勤務時間に変更がある場合には就業規則の改定が必要となります。
自由な働き方といっても、企業の従業員である以上はルールに従う必要があります。在宅勤務のルールを明確にすることで行動指針を示し、業務上のトラブルを回避しなければなりません。従業員が安心して自宅で働くためにも、在宅勤務に関する就業規則が必要です。
就業規則は、10名以上の従業員を雇用する場合には、法的に作成・届出が義務づけられています。これは在宅勤務であっても変わりません。
就業規則が必要なケース
在宅勤務の就業規則の作成や改定が必要となるのは、以下のケースです。
■従来の就業規則に社外で業務にあたる場合のルールが記載されていない
在宅勤務を含むテレワークについてのルールが設定されていないときには、社外での業務対象や業務範囲について明確に定める必要があります。
■在宅勤務を実施する場合のルールが明確でない
在宅勤務における労働時間(始業・終業・休憩)、賃金・手当、業務上発生する費用負担、出社・通勤などの詳細についてルールを設定する必要があります。
社外で働く場合のルール設定では、別個の規程として「在宅勤務規程」を作成したほうが適切な場合があります。多くの就業形態がある企業では、既存の就業規則本体に追加すると、内容が多すぎて分かりづらくなる可能性があるからです。テレワーク規程を別枠で策定し、在宅勤務の項を設けるという方法であれば参照が容易です。
就業規則または別規程で定めるべき事項
■在宅勤務を命じることに関する規定
在宅勤務の実施にあたり、具体的な指示命令や従業員からの希望受け入れについてのルールを定めます。
■在宅勤務の定義
在宅勤務にあたる場所や、その場所で遂行される業務についてのルールを定めます。
■対象者
在宅勤務を実施する対象者について定めます。
■利用申請
在宅勤務の申請と許可について定めます。
■労働時間
業務開始・終了・休憩、またその報告の方法について定めます。
■給与・手当
在宅勤務を行った場合の給与、その他の手当について定めます。
■安全衛生(作業環境)
在宅勤務者が心身に支障なく業務を行うため、安全衛生法上適した作業環境である必要があります。基準を定めるときには、就業規則にその内容を追加します。
■安全衛生(健康管理)
在宅勤務者の健康状態把握と保持のため、健康診断について定めます。定期的な診断のほか、産業医への相談を義務づけるときには、その旨を記載します。
■安全衛生(作業管理)
作業時間・作業量についての管理方法を定めます。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」に即した規程を定めるときには、内容を追記します。
■服務規律(セキュリティー)
資料の持ち帰り、秘密保持・個人情報保護のルール、使用機器類のセキュリティーに関するルールを定めます。既存の就業規則で不足する場合には、在宅勤務に関して必要な事項を追記・作成する旨を記載します。
■機器・通信の費用負担
在宅勤務で発生する通信費・郵送費・事務用品費・消耗品費、その他の費用について定めます。光熱費のような、個人使用とみなす費用がある場合には、その旨を記載する必要があります。
在宅勤務のための就業規則作成の手順とは
在宅勤務の就業規則を作成する一般的な流れは以下の通りです。
1.既存の就業規則で対応が可能かを確認する
2.在宅勤務における変更点をあげて原案を作成
3.従業員への説明・要望の聞き取り
4.問題個所の修正
5.労働者代表への意見聴取・労使協定の締結
6.就業規則の改定を周知
7.労働基準監督署に提出
8.在宅勤務対象者への労働条件の明示
既存の就業規則を確認し、変更点を拾い上げながら、追加が必要な項目を検討します。在宅勤務の就業規則は就業規則本体に属するため、齟齬(そご)がないようにしなければなりません。
所轄の労働基準監督署に相談しながら、法令を遵守した規程を作成します。在宅勤務の対象者とその周辺だけではなく、全社的に広く従業員への理解を浸透させましょう。
在宅勤務に関する就業規則改定の注意点
在宅勤務に関する就業規則改定を行う際に、特に留意が必要な点を解説します。
■遠隔地での業務遂行であることを考慮
複数の従業員が一同に会する社内とは異なり、個々の従業員が離れた場所にいることを考慮する必要があります。万が一の重大トラブル発生時の連絡方法や、急行する担当者の任命など、対処方法も盛り込んでおくことが求められます。
■労災保険の適用範囲の明確化
在宅勤務においては、プライベートと業務の境界があいまいになりがちです。労災保険(労働者災害補償保険)が適用される範囲についても、可能な限りの詳細な取り決めが必要です。
■災害防止の指導マニュアルで安全意識の啓発
就業規則には在宅勤務時の安全衛生についての記載もありますが、社内とは違い個々の従業員に任せる部分が多くなります。具体的な災害防止のための指導マニュアルを作成し、よりいっそう、従業員の安全意識の向上をはかることも大切です。
■労働基準監督署への届出・従業員への周知
在宅勤務に関する就業規則を別規程で作成した場合、就業規則が改正されたことになるため、あらためて労働基準監督署への届出をする必要があります。別規程で作成した場合でも、在宅勤務規程は就業規則本体の一部とされます。
労働条件については策定にあたって従業員への周知を行い、特に在宅勤務の対象となる従業員から意見を収集しておくことが望まれます。
■労働基準法に規定された内容であること
就業規則に記載する内容は、労働基準法で定められています。また、就業規則は法令や労働協約に反するものであってはなりません。改正を行う際にも、この点を十分に留意することが重要です。
就業規則や社内制度の見直しは、専門家のアドバイスがなければ難しい場合もあるでしょう。コニカミノルタジャパンは、TRIPORT株式会社と協業し、テレワーク導入に向けた課題解決の支援を行うサービス「クラウド社労士コモン」の提供を始めました。同サービスでは、テレワークの導入をめざす企業に対し、ITサービスの提供だけでなく、人事や労務相談などができる環境を整え、総合的に課題解決を支援します。これまでは、ITツールの導入、人事・労務制度に関する相談などを個別に手配する必要がありましたが、一括で行えることで、迅速に環境整備ができます。在宅勤務導入の実施にあたり、規程や規則の改定などのサポートサービスについて確認したい方はぜひ「クラウド社労士コモン」をご覧ください。
規程の見直しも必要ですが、勤怠管理がWeb(デジタル)化されていない企業も多く、規程見直し後のステップとしては、勤怠実績管理システムの検討が必要です。在宅勤務で業務に従事する従業員を適切に管理するための方法を検討している場合には、ぜひ下記の関連記事もご覧ください。
原則に則りながら自社に合わせた規定づくりを
在宅勤務では、一般的に通常の勤務形態とは異なる条件が発生します。就業規則の範囲外での業務は、トラブルが生じるリスクがあり、また法令に抵触する可能性もあります。
したがって、在宅勤務の導入では一般的に就業規則を変更する必要があると考えておきましょう。既存の就業規則本体に在宅勤務規定を付帯する方法もありますが、別規程としたほうがわかりやすくなります。今回説明した項目のほかにも、企業の事業内容などによっては追加項目が必要となる場合もあります。自社に合わせた規定を作成し、運用後に見直しをかさねながら、在宅勤務の円滑化をはかっていきましょう。
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いいじかん設計 編集部