「働き方改革」では、ワークライフバランスの改善による出生率の上昇や、子育て中の女性の労働参加も期待されていますが、その裏に見えるのは従来の働き方の問題点です。
特に女性の場合、結婚・出産・子育て等により機会やキャリアが失われることから、働く女性が結婚・出産に対して消極的になり、育児と仕事の両立が難しい現状があります。
厚生労働省の調査でも、離職した女性の退職理由で一番多いのは、依然として「出産・育児のため」となっています。その一方、15歳未満の子供がいる無職の女性で「就職を希望する」と回答した人が約86%と大多数を占めるなど、子育て中の女性の就労意欲が高いことが伺えます。
人手不足の解消が経営課題となっている企業では、育児休業で女性の離職を防ぎ、時短勤務などで復職を支援する施策が有効です。
政府が進める「働き方改革実行計画」の中で、次の施策により、子育てと仕事の両立を推進しています。
「待機児童解消加速化プラン」では、2017年度末には待機児童をゼロにすることを目標にしていました。しかし目標は未達成だったため、2018年以降は「子育て安心プラン」という新たなプランに取り組んでいます。
「子育て安心プラン」には、次の2つの目標を掲げて、保育士の処遇改善など保育事業の拡充施策が盛り込まれています。
子育てを理由に仕事を辞めずに済むよう、保育園が見つからない場合などは、育休給付の支給期間を最大2歳まで延長できます。
男性の育児への参加を徹底的に促進するため、男性の育休取得促進に取り組む事業主を支援するなど、ニーズを踏まえた両立支援策について検討、動員しています。
また、「育児・介護休業法」では、育児休業、子の看護休暇、所定外・時間外労働の制限、深夜業の制限、育児のための所定労働時間短縮の措置、育児休業等によるハラスメントの防止などを定めています。2021年には、子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようにするなど法改正が適宜行われるため、情報をキャッチアップしましょう。
ワークライフバランスは「仕事と生活の調和」と訳します。「ワーク(仕事)」ばかりで「ライフ(生活)」を犠牲にするのではなく、ワークとライフのバランスをとることで、より仕事の生産性を高めようとする考え方です。
「仕事と生活の調和(ワークライフバランス憲章)」では、仕事と生活の調和が実現した社会を「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と位置づけています。
それではワークライフバランスの定義と背景についてご紹介します。
政府がワークライフバランスを推進しているのは、次に挙げる問題から、子育てと仕事の両立が困難になり少子化問題につながっているためです。
少子化による労働力不足解消のためにも、国や企業が一体となって働きやすい環境作りを推進する必要があります。働き方を変える=企業にとっては明日への投資を行うことで、生産性の向上、競争力強化および労働力確保につなげるという考え方です。
昨今の社会情勢から「ワーク(仕事)」と「ライフ(生活)」の境目が曖昧になっており、ワークライフバランスの「ワーク」と「ライフ」を切り分けている考え方では無理が生じるパターンも出てきました。そこで、ワークライフインテグレーションという概念が生まれました。ワークライフインテグレーションは「仕事と生活の統合」と訳します。
テレワークでの在宅勤務が浸透している中で、生活の中に仕事が入り込むようになったり、逆にオフィスの中に「ライフ」の要素を取り入れる企業の事例も増えています。
例えば、オフィスの中に運動ができたり楽器を演奏できる設備、食生活を支えるオフィス設置型社食サービス、リビングのようにくつろげるカフェスペースを設置するなどして、仕事の生産性を高める取り組みです。
「ワーク」と「ライフ」を切り分けて偏りが無いようバランスを整えるのがワークライフバランスの考え方ですが、ワークライフインテグレーションは「ワーク」と「ライフ」が相互に相乗効果を生み、公私ともに質を高め生産性を高めるという新しい考え方です。
コニカミノルタジャパンの「つなぐオフィス」でもオフィスの中に運動ができるオフィス家具を配置したり、カフェスぺ―スなどを設けています。気分転換、リフレッシュができるスペースや仕掛けを用意することでクリエイティブな発想や社員エンゲージメントの向上が見込めます。
子育てには大きく、妊娠期・出産・産後期・育児期・復職のフェーズがあります。このうち、企業にとっては育児期・復職のフェーズにおける、育休取得・復職支援が大きな要素となります。
「中小企業の人手不足対策に!女性が働きたくなる職場づくり」では、看護休暇や半日あるいは時間単位での有給、時短勤務、フレックス、残業免除、テレワークなどの施策をご紹介しました。また、制度を整えると同時に、職場の理解促進や人間関係の配慮も行い、制度を利用するハードルを下げる取り組みも重要であることをお伝えしました。
今回は、育休取得・復職支援の中でも近年注目されている、男性の育児参加支援についてご紹介します。
なぜ男性の育児参加を企業が主体となって支援する必要があるかというと、男性の家事育児参加率と出生率は比例するというデータがあること、そして核家族世帯が主流の現代で女性が子育てと仕事を両立するには、夫である男性の育児参加が欠かせないためです。
共働きにも関わらず「家事育児は妻がするもの」が当たり前の風土を日本全体で変えるためにも、企業が主体となって支援する必要があります。
男性の育児参加支援には、男性の育休取得を推進する取り組みや、育児参加を会社が評価する仕組みの導入などがあります。次に、男性の育児と仕事の両立を推進する企業を厚生労働省が表彰する、イクメン企業アワードに選ばれた中小企業の事例も交えながら取り組み例をご紹介します。
「イクメン企業アワード2019」に選ばれた株式会社コーソル(従業員数127名)は、育休を取得した男性社員の座談会を開催し社内報で公開する、育休取得者リストを社内公開するなどの取り組みで、男性の育休取得のハードルを下げています。
「イクメン企業アワード2018」に選ばれた株式会社サカタ製作所(従業員数141名)は、年に1回イクメン表彰・イクボス表彰を実施し、男性が育児参画を会社が評価する姿勢を示しています。
「イクメン企業アワード2017」に選ばれたヒューリック株式会社(従業員数149名)は、配偶者の出産報告を受ける際に、育休についての説明、取得促進を行っています。同社の取り組みは人事担当からの声かけですが、直属の上司から育休取得を促してもらう方法も効果的です。
育児と仕事の両立の観点で「働き方改革」についてご紹介しました。時短勤務や在宅勤務でのテレワークを認めるなどの柔軟な勤務形態、男性の育休取得推進などを通じて、「育児と仕事の両立」支援を行い、社員のワークライフバランスを保つことは、企業の生産性の向上、競争力強化および労働力確保につながります。
今回ご紹介した施策も参考に、是非施策を検討してみてください。また、制度があっても使いづらい雰囲気の職場も見られます。制度を整えると同時に、上司や周りの同僚を含めた職場の理解促進もあわせて行いましょう。
文責:大内絵梨子(中小企業診断士)
民間食品企業で人事、働き方改革関連業務に従事。中小企業診断士取得後、ヘルスケア事業の企業を中心に経営支援を展開。
二児の母として育児と仕事と経営支援の三足のわらじを履き日々奮闘する中で得た知見を活かし、経営コンサルティングや研修講師、執筆活動を行なっている。
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