バイオヘルスケア事業の強化に向け、2017年7月、当社は(株)産業革新機構と世界トップクラスの遺伝子解析技術をもつ米国アンブリー・ジェネティクス社(AG社)の買収を発表しました。プライマリーケアの高度化に貢献することで、新たな収益の柱の確立を目指します。
近年、医療の世界では、がん治療に象徴されるように、早期発見・早期治療につながるプライマリーケア(初期診断)の高度化が大きなテーマとなっています。これまで当社では、X線や超音波を利用した画像診断装置とICTサービスを組み合わせ、「かかりつけ医」など小規模な医療機関でも高精度な診断を可能にすることで、プライマリーケアの高度化に貢献してきました。今後は、これとともに「プレシジョン・メディシン」に注力していきます。
プレシジョン・メディシンとは、患者様の体質を遺伝子やタンパク質など分子レベルで判別して精密に層別(グループ)化し、それぞれの特性に応じた治療を行うことです。従来の標準化された医療に比べて、より的確で効率的な治療や投薬、予防が可能になります。
プレシジョン・メディシンは、特にがんのような遺伝的・体質的な影響を受けやすい疾患領域において、その効果が期待されます。抗がん剤は高額な上に、副作用のリスクがあるにもかかわらず、その奏効率は20~30%とされています。プレシジョン・メディシンが普及することで、より効果的で副作用の少ない薬を選択でき、患者様のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)向上に貢献します。また、製薬企業にとっても、奏効率の高い薬をより効率的に開発でき、開発期間や開発費を圧縮して薬価引き下げにもつながります。さらに、早期発見や治療の効率化によって療養の長期化を抑制し、社会全体の医療費削減にも寄与するものと期待されています。
当社では、特定のタンパク質を“見える化”する「HSTT(High Sensitive Tissue Testing)」を開発し、プレシジョン・メディシンの分野でも事業を推進してきました。HSTTは、当社の原点である写真フィルム分野で培った画像処理技術や材料技術を活かして、がん細胞など特定タンパク質を高精度に定量化するもので、正確で効率的ながん診断と、効果的な治療薬の開発や投薬に貢献します。2016年度からは、この技術を活用した新たな創薬支援システムの開発を目指し、免疫学などの分野で多くの成果を上げている仏・パスツール研究所との共同研究も開始しています。
こうした既存技術に加え、今回のM&Aによって、アンブリー・ジェネティクス社(以下、AG社)の世界トップクラスの遺伝子解析技術を獲得することで、当社は「タンパク質」と「遺伝子」というプレシジョン・メディシンにおける両輪を一手に担い、それらを診療現場と製薬企業の双方に提供する、世界でも類のない企業となります。
AG社は、最新鋭の大規模ラボをもち、米国で幅広い遺伝子診断サービスを提供しています。今後、当社は同社とのシナジーを追求するとともに、世界各国の製薬会社や研究機関とのオープン・イノベーションにも注力。患者様の高精度な層別化を可能にするバイオインフォマティクス(生物情報学)技術の確立と、日本やアジア、欧州での遺伝子診断サービスの展開を進め、プレシジョン・メディシン分野におけるグローバル・リーディング・カンパニーを目指します。
産業革新機構は、2009年7月の設立以来、日本の産業競争力強化を目途にさまざまな分野での投資活動を行っており、健康・医療産業もその重点分野の一つです。今回、コニカミノルタ社の固有技術である「タンパク質高感度定量検出技術」とアンブリー・ジェネティクス社(AG社)の持つ「遺伝子診断技術」を合わせることで、最先端の技術力を持ったグローバル・リーディング・カンパニーの創出を期待し、AG社の共同買収に至りました。産業革新機構としては、本件を通じて、日本国内における「プレシジョン・メディシン」の基盤整備、関連事業の確立、そして本格的な普及を期待するとともに、日本企業やアカデミア・医療機関とのオープンイノベーションを促進することで、健康・医療産業における新たな付加価値の創出に貢献したいと考えています。
株式会社産業革新機構
代表取締役社長
勝又 幹英様
バイオヘルスケア事業を5年後には
売上高1,000億円規模に成長させていきます
コニカミノルタ株式会社
常務執行役 ヘルスケア事業本部長
藤井 清孝
遺伝子診断に保険が適用されている米国では、遺伝子から個々の体質を分析して、治療や投薬、予防を行うプレシジョン・メディシンが普及しています。その米国において遺伝子診断ビジネスでトップクラスの実績を持つ企業がAG社です。一方で、当社がヘルスケア事業で顧客基盤を築いてきた日本では、まだまだ遺伝子診断は普及していません。しかし、高齢者の増加で社会保障費の増大は社会課題の一つとなっており、今後、遺伝子診断も含めたプレシジョン・メディシンの普及が期待されています。AG社が培ってきた先進的な技術やノウハウ、そしてネットワークは、日本において遺伝子診断ビジネスをスピーディーに立ち上げる上で、非常に大きな強みになるはずです。
また、両社の技術シナジーにより、細胞の「設計図」である遺伝子と「構成材」となるタンパク質の双方からの分析が可能になったことは、世界へ事業を広げていく上でも大きな意 味があります。AG社とは世界でプライマリーケアの高度化に貢献するというビジョンを共有しており、日本や米国にとどまらず、この分野でグローバルにプレゼンスを向上させていきます。
プレシジョン・メディシンの世界的な市場規模は、現在は約40億ドルとされています。これが5年後には約70億ドル、10年後には約100億ドルと、大幅な成長が見込まれています。当社は、この分野において他社には真似できない高付加価値な診断サービスを提供することで、高収益なビジネスモデルを構築し、2021年度には売上高を1,000億円規模、営業利益率を20%とする目標を掲げています。
まずは、当社が医療機関とのネットワークを持つ日本で遺伝子診断サービスを2018年度から開始します。同時に、(株)産業革新機構とも連携し、遺伝子診断の保険適用認可など、事業環境の整備を進めることで、遺伝子診断が普及していない日本で、いち早くビジネスモデルを確立していきます。また将来的には、診断結果から得られた遺伝子情報をデータベース化することで、日本人固有の特性に応じた遺伝子解析や、その結果を活かした効果的・効率的な治療技術や医薬品の開発に貢献していきます。さらに、こうした取り組みの延長として、遺伝子研究機関とも連携しながら、日本の国家ゲノム戦略の推進にも寄与していきたいと考えています。
バイオヘルスケア事業の将来計画
2社のリソースやテクノロジーを活かし、
プレシジョン・メディシンの実現に貢献していきます
アンブリー・ジェネティクス
Chief Executive Officer
アーロン・エリオット氏
当社は遺伝子診断を専門とする企業であり、疾病の有無や状況を明らかにして、より早期の治療を実現することを使命としています。約20年にわたり、科学的根拠に基づく高品質の遺伝子診断を提供することで治療の精度向上に貢献し、お客様から大きな信頼を獲得してきました。検査メニューとしては、単一遺伝子分析、多重遺伝子パネル、マイクロアレイ、エクソーム解析、新たな検査(生殖細胞/体細胞)などがあります。また、腫瘍学、心臓病学、婦人科学、予防医学、神経学、一般遺伝学の各分野における遺伝性検査を専門としており、「意義不明の変異(variant of unknown significance:VUS)」を明確にするためのエビデンスを提示するという、ユニークなラボサービスも提供しています。
1999年の設立当初は、完全かつ正確な結果の導出が可能な手法を用いて嚢胞性繊維症の患者様から提供されたサンプルのシークエンシング(塩基配列決定)を事業としていましたが、その後、マイクロアレイを導入し、現在は新たなテクノロジーを応用した事業を展開しています。2010年に次世代シークエンシング(NGS)の提供を開始したのに続き、その翌年には、臨床診断におけるエクソーム・サービスの応用でCLIA※1の認証を取得しました。さらに、2012年からは遺伝性腫瘍パネルを提供しています。これらはいずれも商用ラボとしては初めての取り組みです。そして2016年には新たな専門ラボ「スーパーラボ」を開設し、CLIAとCAP※2の認証を取得しました。総面積65,000平方フィートに及ぶこのラボは、高度な自動オペレーションを実施するとともに、検査結果取得時間で業界最速クラスを実現しています。また、的確な追跡と高い検査精度を確保するために、DNAを「指紋化」しています。
私たちは、世界トップクラスの臨床医や学術研究機関との共同研究を常時200件以上推進しており、また、開発した遺伝子欠失や遺伝子重複の検出法は、広範な研究で検証を受けています。NGSパネルに関しては、当社が発表した研究が、現在、最も規模が大きく、精度の高いものとなっています。こうした数々の成果は、当社のスタッフの力によって生み出されてきました。常に患者様を中心に考え、失敗を恐れず、熱意を持って革新的な研究に取り組むスタッフ一人ひとりの努力が大きな成果につながっています。
当社は、科学研究を進めることで、プレシジョン・メディシンをさらに発展させるという大きな責任を担っており、何よりも品質と精度を大切にしています。これまで、当社には買収の提案がたびたび寄せられてきましたが、そうした提案を受けるたびに、「この企業は患者様のQOL向上に努力を惜しまず取り組む姿勢を持っているか?」「責任を持って生命を尊重し、科学の発展に貢献するというビジョンを共有できるか?」といった問いを自らに投げかけてきました。そうしたなかで今回、コニカミノルタとパートナーシップを結んだのは、理念や価値観を共有できる企業だと確信したからです。人々を苦しめているさまざまな病気に対する新たな診断検査法の開発を加速する――私たちは、互いのリソースやテクノロジーを活かして、グローバル規模でバイオヘルスケアの発展に貢献していきます。