中小企業の後継者不足対策!事業承継を進める方法とは?
- #人材採用と定着
前回の記事「後継者不足が課題!中小企業の事業承継」では、後継者不足が課題となっている中小企業の「事業承継」の方法として、「親族内承継」「役員・従業員承継」「M&A」の3パターンをご紹介しました。
今回は「事業承継」の全体の進め方・手順について、中小企業庁策定の「事業承継ガイドライン」をもとにご紹介したいと思います。
INDEX
事業承継の必要性とその準備
後継者不足が原因の倒産が過去最多など、経営者の高齢化と後継者不足が社会的な課題となっています。60歳以上の経営者の約半数が廃業を予定しており、うち28.6%が後継者難を挙げてるという調査もあります。
廃業となると、事業を通じて培ってきた人脈や技術など、大切な経営資源が失われてしまうため、早めの着手が重要です。たとえば後継者の育成には5〜10年かかるとされています。
事業承継の5つのステップ
事業承継ガイドラインでは、次の5つのステップで事業承継を進めていきます。
■ステップ1 事業承継に向けた準備の必要性の認識
事業承継はプライベートな領域に関わるため、なかなか外部の専門機関に相談しづらく、また経営者も多忙なため後回しになりがちと言われています。そのため、とにかくまずは準備の必要性を認識することが第一歩です。手始めに「事業承継診断票」に取り組み、現状認識することも有効です。
■ステップ2 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
後継者へ引き継ぐためには、現在の会社の状態を正しく把握することが必要です。把握できた現状を、後継者や社内に共有するために「見える化」をします。
■ステップ3 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
事業承継のための準備ステップ2、3をきっかけに経営改善されることもメリットに挙げられます。
■ステップ4 事業承継計画の策定またはM&A等のマッチング実施
親族内・従業員承継の場合と社外への引継ぎの場合で異なります。
■事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)
- 今後10年を見据えた計画を策定し、関係者に共有します。
■M&A等のマッチング実施(社外への引継ぎの場合)
- M&A仲介機関の選定と、売却条件の検討をします。
■ステップ5 事業承継の実行
ステップ1~4を踏まえ、事業承継を実行し、適宜計画のブラッシュアップを行うなど、PDCAを回します。
会社の現状を把握し「見える化」する方法
事業承継は経営状況や経営課題、経営資源等を「見える化」することから始まります。事業承継の5つのステップのうちのステップ2「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」にあたります。「見える化」の具体的な方法は、「会社の経営状況の見える化」「事業承継課題の見える化」の2つを行います。
会社の経営状況を確認します。「会社の経営状況の見える化」に際するチェックポイントは次のとおりです。
会社の経営状況の見える化
- 自社を取り巻く環境変化やそれに伴う経営リスクは?
- 貸借対照上の資産をはじめ、無形の知的財産などの経営資産は?
- 決算業務が適正に行われているか?基準は統一されているか?
事業承継課題の見える化
事業承継のメインの課題である後継者候補について検討します。「事業承継課題の見える化」に際するチェックポイントは次のとおりです。
- 後継者にふさわしいか?
- 関係者から反対されないか?
- 反対される可能性がある場合、対応策は?
- 後継者が親族内の場合、相続方法は?
「親族内承継」「役員・従業員承継」「M&A」それぞれのメリット・デメリット
事業承継の方法として「親族内承継」「役員・従業員承継」「M&A」の3パターンから決定します。3パターンそれぞれにメリット・デメリットがあります。
「親族内承継」で事業承継するメリット・デメリット
■メリット
- 従業員や取引先から理解を得やすい。
- 早い段階で後継者を決定し、後継者育成の準備期間の確保が可能。
- 相続等により、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い。
■デメリット
- 親族内に、経営者としての資質と意欲を併せ持つ候補者が存在するとは限らない。
- 相続人が複数いる場合、後継者以外の相続人への配慮が必要。
「役員・従業員承継」で事業承継するメリット・デメリット
■メリット
- 会社の内外から理想の候補者を探すことが出来る。
- 長期間勤務している従業員が後継者になると、経営の一体性を保ちやすい。
■デメリット
- 経営者としての資質と意欲を併せ持つ候補者が存在するとは限らない。
- 株式取得等に多額の資金を必要とするが候補者に資金力が無い場合が多い。
- 個人債務保証の引き継ぎ等が困難。
「M&A」で事業承継するメリット・デメリット
■メリット
- 後継者が見つからない場合の解決策になる。
- 会社売却により利益を獲得できる。
■デメリット
- 希望する売却条件を満たす相手が見つかるとは限らない。
- 経営の一体性を保つのが困難な場合がある。
「親族内承継」「役員・従業員承継」する方法
「親族内承継」「役員・従業員承継」で行う、事業承継計画の作成と実行についてご紹介します。事業承継計画について中小企業庁は、"自社や自社を取り巻く状況を整理した上で、会社の10年後を見据え、いつ、どのように、何を、誰に承継するのかについて、具体的な計画を立案しなければならない。この計画が、事業承継計画である"と謳っています。
事業承継計画作成の流れは、まず経営者が自身の経営の歴史や価値観を再認識したうえで、中長期目標を設定し、計画を作成します。
事業承継計画作成から実行にあたり、重要なポイントは次のとおりです。
- 経営者自身が今までの経営を振り返り、経営に対する価値観を再確認し、後継者と従業員に共有する。
- 計画を関係者に共有し、信頼関係を維持する。
- 計画の作成および実行を、後継者に必要なノウハウ獲得や組織体制の整備などに繋げ、会社のパワーアップを図る。
- 10年後に向けた中長期的な会社の方向性を位置づける。どの時期に事業承継を行うか、後継者は課題に対しどう取り組むかなども盛り込むことで、事業の再成長につなげる。
なお、事業承継計画には次の項目を盛り込みましょう。
- 自社の現状分析
- 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
- 事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討
- 前述の中長期目標の内容について
- 円滑な事業承継に向けた課題の整理
中小企業庁策定の「事業承継マニュアル」では、事業承継計画のサンプルと記入例も公開されていますので、ぜひご参考ください。
「M&A」で事業承継する方法
後継者不在等のため、親族や従業員以外の第三者に事業引継ぎする場合、M&Aも選択肢となります。M&Aの流れは、「M&A仲介機関の選定」と「売却条件の検討」を行い、交渉の末、譲り受け企業が決定します。
M&A仲介機関を選定する
M&Aには専門的な知識が必要です。また、自社の希望にマッチした譲り受け企業を見つけるノウハウも重要です。そのため、M&A専門業者や取引金融機関、士業等専門家等の中から、信頼できる仲介機関をいかに見つけるかが肝になります。
M&Aは、全く知らない外部の経営者に変わってしまうため、従業員に影響が出るのではと懸念される経営者も多いですが、自社に合ったM&A仲介機関を見つければ、信頼できる経営者を選ぶことも可能です。普段のお付き合いや紹介、WEB等の情報源も参考にしながら自社に合ったM&A仲介機関を選びましょう。
売却条件を検討する
M&Aを行うにあたり、自社の希望にマッチした譲り受け企業を見つけるためには、
- 会社全体を引き継ぐか、それとも一部の事業だけ残したいか?
- 従業員の雇用や社名は維持したいか?
など、どのような形で事業承継を希望するか事前に売却条件を考え、M&A仲介機関に伝える必要があります。
M&Aの主な手法は以下の手法があるので、どの方法を希望するか予め考えましょう。
- 会社の株式を他の会社に譲渡する方法(子会社化)
- 株式を他の個人に譲渡する方法
- 会社の事業を他の会社に譲渡する方法
- 個人事業主の事業を他の個人事業主に譲渡する方法
まとめ
「事業承継ガイドライン」をもとに、事業承継の全体の進め方・手順についてご紹介しました。事業承継では、「親族内承継」「役員・従業員承継」の場合は、後継者の選定から育成および事業承継計画の作成と実行、「M&A」の場合は、仲介機関の選定や交渉などのステップがあり、業務多忙の中ではどうしても優先順位が上がりにくいかもしれません。
しかし事業承継は、経営者自身が過去、現在、未来の経営環境を改めて振り返り考え、後継者へ大切にしてきた価値観やノウハウの共有を行え、更に様々な改革により経営を磨き上げる機会とも捉えられます。そして何より事業を存続するためにも、早い段階でまずは取引金融機関、士業等の専門機関に相談してみてはいかがでしょうか。
文責:大内絵梨子(中小企業診断士)
民間食品企業で人事、働き方改革関連業務に従事。中小企業診断士取得後、ヘルスケア事業の企業を中心に経営支援を展開。
二児の母として育児と仕事と経営支援の三足のわらじを履き日々奮闘する中で得た知見を活かし、経営コンサルティングや研修講師、執筆活動を行なっている。