原理/知識
ハイパースペクトルイメージングとは
見えないものを明らかにする
すべての材料や化合物は光との相互作用で異なる吸収・放射・反射をし、ハイパースペクトルイメージングは様々な材料を識別したりそれらの特性を定義するための非破壊の計測方法です。
この計測方法を用いることで、各々の物質に特有の吸収や反射の分光スペクトルパターン「スペクトルシグネチャ(spectral signature)」を得ることができます。 スペクトルは光の強度と波長で表します。
ハイパースペクトルイメージングの一例
近赤外線照明での反射計測によるパンの水分量の違いを計測してみました。画像は開封直後と一定時間経過後のパンをデジタルカメラ(RGBカメラ)で撮影したものです。
経時変化によって生じる特性の変化として、私たちの身近なものでは色、水分量、臭い等が挙げられると思います。
見た目の変化はRGBカメラで観察し、色の変化を定量的に測定したい場合は分光測色計、水分量と相関があると思われる硬さの変化測定は専用の計測機器で測定が可能です。ただしこの両者は機器をパンに接触させての測定になります。
他にイメージング色彩輝度計を用いて非接触で色の変化を測定することは可能ですが、照明光源の制限・制御が必要になり、条件管理の考慮が必要になります。
水分量の変化は水分計で測定可能ですが、非接触且つパンの部位による水分量の違いを計測したい場合は、ハイパースペクトルイメージングの技術が必要です。この場合、ある特定の近赤外の波長(1000nm以上での水の吸収波長)を計測することでモニタリングが可能です。
この特性をハイパースペクトルイメージング技術を搭載したハイパースペクトルカメラで計測することで、水分量の変化を見ることを実現します。
ハイパースペクトルカメラの特長
以下はイメージングデバイスを用いた機器における、計測波長領域と2次元面内における各ポイントの出力を表記したものです。
機器 | 計測波長領域 | 出力 |
---|---|---|
RGBカメラ | 可視 | RGB各ビット数 |
イメージング色彩輝度計 | 可視 | 三刺激値(各XYZ値) |
近赤外線カメラ | 近赤外 | エネルギー量 |
ハイパースペクトルカメラ(CMOSセンサー使用) | 視 + 近赤外(~1000nm近辺) | スペクトルデータ ※要スキャニング |
ハイパースペクトルカメラ(InGaAsセンサー使用) | 近赤外(1000~1700nm近辺) | スペクトルデータ ※要スキャニング |
一般的な名称で知られている「近赤外線カメラ」は、ある波長範囲の近赤外領域を受光して画像出力、もしくはその波長範囲の近赤外エネルギー量を出力するものなので、分光データの出力は困難で、その点がハイパースペクトルカメラとは大きく異なる点と言えます。
ハイパースペクトルカメラは測定点毎にスペクトルデータを得られるという大きな特長があり、以下のことを実現します。
●高度な分析
●精度の高い検出
●正確な識別
ハイパースペクトルカメラでは、測定対象物の3次元情報(2次元のスペクトルデータ)が得られます。
3次元情報とは、2次元の位置情報と測定対象物の画像のピクセル画素ごとに得られたスペクトルデータを指し、この3次元情報によってその箇所ごとの分析や材料が何であるか?の識別や特定ができるようになります。
ハイパースペクトルイメージングデータは、ハイパースペクトル情報が3次元であるため、「データキューブ」と呼ばれています。
ハイパースペクトルカメラは、機種によって取得できる分光波長領域に違いがあるため、対象物によって最適なカメラを選定する必要があります。