火災予防の基本:工場でのリスク管理入門

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火災現場のイメージ画像

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火災予防の重要性と工場火災の現状

国内では年間約38,000件の火災が発生しており、その中でも工場火災は特に企業活動に深刻な影響を与えています。火災による損害は、建物や設備が失われる直接的な物的被害だけでなく、事業停止、顧客の信頼喪失、取引先との関係悪化といった間接的な影響も含まれます。そのため、火災予防は工場運営において不可欠な取り組みと言えます。

工場火災の深刻な被害例

工場火災の具体例として、2020年にインドの製紙業工場で発生した火災では、被害額が約161億円に達し、事業運営に多大な支障を来しました。また、2022年に日本国内で発生した製菓業工場火災では、約54億円の損害を受け、工場が約3か月間停止する事態となりました。2017年の通信販売業倉庫火災では、約94億円もの損害賠償が発生したことが報告されていて火災の発生による影響の大きさが伺われます。
こうした火災による影響は経済的な損失だけでなく、社会的な影響も顕著です。2024年、韓国のリチウムイオン電池工場で発生した火災では23人が犠牲になり、従業員の安全確保の重要性が改めて浮き彫りになりました。また、上述製菓工場火災でも6人が犠牲となり、社会に大きな衝撃を与えました。

火災の影響がもたらす連鎖的な問題

火災は物的損害に加え、サプライチェーン全体にも波及します。たとえば、2020年に発生した半導体製造工場火災では、数か月にわたる工場停止が業界全体に影響を及ぼし、関連企業の生産にも大きな支障を与えました。これにより、取引先企業は代替供給源を確保する必要に迫られ、さらなるコスト増加を招きました。

火災予防の重要性

これらの事例から明らかなように、工場火災を未然に防ぐ取り組みは、企業の事業継続性を守るために極めて重要です。特に、従来の火災対策だけでなく、最新技術を活用したリスク管理の導入が求められます。サーマルカメラやIoTを活用した温度監視技術は、早期の火災検知やリスク軽減に効果的であり、多くの企業が採用を進めています。これらの取り組みは、消防法や火災予防条例に基づく法令順守の観点からも重要性を増しています。

工場火災の原因とリスク要因の分析

工場火災の主な原因として、配線トラブルや機械の過熱、リチウムイオン電池の自然発火が挙げられます。これらの火災は、設備の老朽化や管理の不備によって発生することが多く、未然に防ぐためにはリスク要因を早期に把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。本章では、工場火災の発生原因トップ5と、それぞれのリスク要因および防止策について詳しく解説します。

工場火災発生原因ワースト5と防止策

  • 溶接作業時の火花

  • 溶接や切断作業中に発生する火花が周囲の可燃物に引火するケースが多くあります。火花は想定以上に遠くまで飛散するため、事前の環境整備が求められます。

  • 電気機器からの出火

  • 古い配線や機器の過負荷、ホコリの蓄積と湿気の吸収による電気が通りやすくなる現象(トラッキング現象)が火災を引き起こします。

  • 静電気による着火

  • 乾燥した季節に静電気が蓄積し、可燃物に引火するリスクがあります。

  • 可燃性ガスの漏れ

  • 石油精製工場や化学プラントで、可燃性ガスが漏れた場合に引火することがあります。

  • 不適切な可燃物の管理

  • 可燃性液体や化学薬品が適切に保管されていない場合、火災リスクが増加します。

■防止策

防止策の表組

ヒヤリハット事例の重要性とリスク管理

多くの工場では、火災に至らない「ヒヤリハット」の事例が存在します。これらの潜在的なリスクを見逃さず、適切に管理することで、重大な火災を未然に防ぐことが可能です。特に配線の異常や過熱した機器など、些細な問題の蓄積が大火災につながる可能性があるため、定期的な点検と迅速な対応が重要です。

設備管理の不備が招く火災リスク

設備管理の不備は、工場火災の主な要因です。老朽化した機器や適切なメンテナンスが行われていない設備は、火災リスクを高めます。これを防ぐためには、設備管理の徹底や技術的な監視システム(例: サーマルカメラ)の導入が有効です。これらの対策は、消防法や火災予防条例で定められた基準を満たすだけでなく、より高度な安全管理を実現するものです。特に温度監視システムの導入は、早期の異常検知に効果を発揮します。

従来の火災対策と課題

工場の火災対策として、消火器やスプリンクラーなどの法定設備は、多くの現場に導入されています。これらは火災の発生に備える基本的な設備として重要な役割を果たしますが、一部の環境では課題も多く残されています。本章では、従来の火災対策が抱える限界とその課題について、具体例を挙げて説明します。

消火設備と火災報知器の役割

消火器やスプリンクラー、火災報知器は、消防法に基づいて設置が義務付けられた主要な設備です。消火器は初期消火に、スプリンクラーは火災が拡大する前に自動消火に寄与します。また、火災報知器は煙や熱を検知して警報を発し、避難を促す重要な役割を担っています。
しかし、これらの設備には以下のような課題が存在します。

  • 感知器の設置場所によっては、火災の発生を遅れて検知する可能性がある。
  • スプリンクラーの作動には一定の温度上昇が必要で、初期段階での火災対応が難しい場合がある。
  • 誤報や誤作動が発生することがあり、設備への信頼性が揺らぐケースもある。
消火設備と火災報知器の役割

高天井や換気環境による感知の遅れ

高天井の倉庫や換気扇が多く稼働する工場では、煙や熱が拡散して感知器に届くまでに時間がかかることがあります。特に、高天井の施設では煙が上昇するまでの時間が長くなるため、火災が感知されるまでのタイムラグが発生します。この遅れは火災の拡大を許す要因となり、初期消火の機会を失う結果につながります。

誤報や誤作動のリスクとその影響

火災報知器や感知器は、誤報や誤作動を引き起こすリスクがあります。例えば、以下の状況が挙げられます。

  • 高湿度や埃が感知器に入り込むことで誤報を引き起こす。
  • 火器の取り扱いが行われる場所では、感知器の取り付けに適さない。
  • 機器の劣化や老朽化による不正確な検知。

これらの誤報や誤作動が頻発すると、従業員の警報への意識が低下し、実際の火災発生時に迅速な対応ができなくなる可能性があります。

消防法設備で防ぐことが困難な火災への対応

従来の設備では、防ぐことが困難な火災の早期検知を可能にするため、以下のような技術の導入が注目されています。

■サーマル画像技術

サーマル画像技術を活用したサーマルカメラは、物体表面の温度異常を検知し、火災の初期段階での対応を可能にします。高天井や換気が多い環境でも、正確に温度上昇を把握できます。

■ビデオ煙検知

ビデオカメラで煙のパターンを分析し、広範囲での火災検知が可能です。視覚情報も得られるため、状況確認に役立ちます。

■多要素検知システム

煙、熱、ガスなど複数のセンサーを組み合わせたシステムは、単一センサーでは検知が難しい状況でも高精度で火災を検知できます。

■環境モニタリングシステム

温度、湿度、ガス濃度の変化をリアルタイムで監視し、異常を検知すると警報を発するシステムです。
これらの新技術は、消防法や火災予防条例の基準を満たしながら、より高度な火災予防を実現します。特に温度監視システムによる可視化は、従来の課題を解決する有効な手段として注目されています。

サーマルカメラを活用した最新の火災予防技術

サーマルカメラを活用した最新の火災予防イメージ

サーマルカメラは、物体の表面温度を感知し、異常な温度変化を迅速に検出する装置です。この技術は、従来の火災感知器では検知が難しかった環境でも安定した性能を発揮し、工場の火災予防において大きな効果を発揮しています。本章では、サーマルカメラの技術的な仕組み、他の火災感知器との比較、そして具体的な活用事例について解説します。

サーマルカメラの基本原理と操作性

サーマルカメラは、物体から放射される遠赤外線を感知して温度を測定する装置です。あらゆる物体はその温度に応じた遠赤外線を放出しており、これをセンサーで捉えることで表面温度を可視化します。これにより、目に見えない温度変化をリアルタイムで監視できるため、火災の兆候を早期に検出することが可能です。
また、サーマルカメラは操作性にも優れています。設置が容易であり、PoE(Power over Ethernet)による電源供給やネットワーク接続が可能なため、工場内の既存インフラに組み込みやすい設計となっています。さらに、温度異常が検知されると即座に警報が送信されるため、迅速な対応が可能です。

他の火災感知器との比較

サーマルカメラは、煙感知器や熱感知器などの従来の火災感知器とは以下の点で異なります。

■検知対象

サーマルカメラは物体の表面温度を検知するため、発火前の温度異常を早期に検出できます。一方、煙感知器は煙が感知器に到達してから、熱感知器は周囲の温度が一定以上に上昇してから作動するため、検知が遅れる場合があります。

■適応性

高天井や換気扇が稼働している環境では、煙や熱が分散して感知が遅れることがありますが、サーマルカメラはこれらの影響を受けにくく、安定した性能を発揮します。

■感知範囲

サーマルカメラは広い範囲をカバーできるため、少ない台数で効率的な監視が可能です。

サーマルカメラの感知範囲の図

工場での活用事例

サーマルカメラは、多様な工場環境で活用されており、その効果が実証されています。

  • コンベアーの監視

  • コンベアー上の高温資材がコンベアー外に落下、可燃材に引火して火災が発生するリスクがあります。サーマルカメラを導入することで、指定エリア外の異常温度を検知し、迅速な対応が可能となります。あるセメント製造工場では、サーマルカメラを活用することで、クリンカ製造ラインでの火災予防対策として導入しました。

  • ボイラーの温度管理

  • ボイラーの過熱は、工場火災の主な原因の一つです。サーマルカメラは、ボイラーの外部温度を監視し、異常な温度変化をリアルタイムで検知します。これにより、温度管理が徹底され、安全性が大幅に向上しました。

  • ヤード(貯蔵エリア)の監視

  • リチウムイオン電池や木質チップなど、可燃性物質を扱う貯蔵エリアでは、火災リスクが特に高まります。サーマルカメラは広範囲を監視し、異常が発生した際には警報を発するだけでなく、放水設備と連携することで自動消火も可能です。

サーマルカメラの導入効果

サーマルカメラを導入することによる効果は以下の通りです。

  • 早期検知による損失の最小化: 発火前の温度異常を検知し、火災が大規模化する前に対応することで、設備や製品の損失を大幅に減少させます。
  • 運用コストの削減: 少ないカメラ台数で広範囲を監視できるため、設置コストやメンテナンスコストを削減できます。
  • 誤報の減少: 環境要因による誤報を防ぎ、効率的なリソース管理が可能になります。
  • 安全性の向上: 従業員の安全を確保し、保険料や労働災害によるコストを削減します。
  • 信頼性の向上: 業界基準や法令を遵守し、企業の信頼性を高めることができます。

結論

サーマルカメラは、火災リスクの高い工場環境において非常に有効な技術であり、その高い信頼性とROIにより、従来の感知器を補完するだけでなく、より高度な火災予防を可能にします。特に温度監視による可視化と早期検知は、消防法や火災予防条例の基準を超えた安全性を実現します。これからの火災対策として、サーマルカメラの導入を検討する価値は非常に高いと言えるでしょう。

導入事例と具体的な成果

サーマルカメラは、火災予防において革新的なソリューションを提供しており、多くの工場でその効果が実証されています。本章では、実際にサーマルカメラを導入した企業の事例と、そこから得られた具体的な成果について解説します。

リチウムイオン電池工場での火災リスク低減

あるリチウムイオン電池を扱う工場では、電池の自然発火が大きなリスクとなっていました。サーマルカメラの導入により、保管エリアや製造ラインの温度を24時間体制で監視することが可能となり、発火前の温度異常を迅速に検知。これにより、火災発生を未然に防ぎました。
さらに、温度異常が検知されると同時に警報が発せられ、従業員が迅速に対応可能な体制を構築。その結果、火災リスクが大幅に低減され、工場の安全性が向上しました。

ボイラーの過熱を未然に防ぐ事例

ボイラーの過熱は、工場火災の主要な原因の一つです。ある食品加工工場では、ボイラー設備を24時間監視するためにサーマルカメラを導入しました。サーマルカメラはボイラー表面の温度変化をリアルタイムで記録し、危険な温度上昇が検知された場合には即座に警報を発する仕組みを構築。
これにより、設備損傷や火災による操業停止の未然防止として効果を発揮しています。

合同会社境港エネルギーパワー様での活用事例

合同会社境港エネルギーパワー様

合同会社境港エネルギーパワー様では、サーマルカメラを導入することで廃棄物の貯蔵ヤードにおける火災リスクを効果的に管理しています。サーマルカメラは広範囲をカバーし、夜間や無人時でも異常温度を検知、高温になった燃料を撹拌機でかき混ぜることにより自然発火を未然防止。
導入後は火災リスクが大幅に減少、地域消防署からもその取り組みを高く評価いただいているようです。

システム連携による効果

サーマルカメラは、最新の監視システムとの連携によりさらなる効果を発揮します。例えば、環境モニタリングセンサーと統合することで、温度変化だけでなく湿度やガス濃度など多面的なリスクをリアルタイムで監視できます。また、データ分析プラットフォームと連携することで、異常の傾向やパターンを把握し、より高度な火災予防システムを実現できます。

まとめ

工場の安定的な運営と企業の信頼性を維持するためには、火災予防が不可欠です。
本コラムでは、最新技術の活用により、従来の課題を克服し、火災リスクを大幅に軽減できることを紹介してきました。
特に、サーマルカメラの導入は、早期の異常検知を可能にし、工場内の安全性を飛躍的に向上させます。
サーマルカメラを活用した火災予防ソリューションの詳細については、下記の資料をご参照ください。

コニカミノルタの火災予防ソリューション資料

コニカミノルタの火災予防ソリューション資料

本資料では以下の内容をご紹介しています。

  • 国内の火災発生状況と工場・作業場での火災リスク
  • サーマルカメラによる「面」での温度監視システム
  • コンベアーや産廃処理施設などでの導入事例