
東京都民に飲み水をもたらしてくれる多摩川。源流は広い地域にまたがっています。そのなかでも、最初の一滴、と言われる場所があります。山梨県の笠取山。やはりこの辺り一帯も東京都の水道局が管理をしていて、登山道も整備され、見通しのいい森が広がり、気持ちのいい山歩きができるので、わたしはしばしば山登りが初めてという友人を連れてやってきます。
木々には鳥小屋が掛けられ、巣作りの季節には偵察に来る小鳥の姿が見られます。出会いたくはありませんが、熊も生息する森。また数が増えて困っている動物も居ます。木の皮を食べてしまう鹿からの被害を避けるために、柵が築かれ、まるで服を着せるかのように幹をネットで覆った光景も見られます。残念ではありますが、そうすることで森を守っているのです。

登山道はつねに沢の音を耳にしながら、水流と道が交わるところでは、夏でもキンと冷たい水に触れることができます。水場では行きも帰りも、水筒にたっぷりと水を汲んで、山の中ではそのまま口に含むのも良いですし、それで煎れたコーヒーはまた格別です。
最初の一滴は、笠取山の頂上のすこし手前にあります。森林限界から出ることはなく、そこはやはり森の中。自然の形状で祠のように窪んだところ、夏には岩全体から水が染みだしていて、青々とした苔を通じてその一滴が水盆に零れ落ちます。水滴は苔の色を映して、緑に輝いている宝石のようです。零れ落ちる音は、実際にあったのかなかったのか。小さな音は今でも耳の奥で聞くことができます。

海までの距離は、138キロ。一滴が零れ落ちるところは、水干と呼ばれ、水干(みずひ)神社として祭られています。自然の恵みに感謝の気持ちを捧げることを忘れないようにする、神社として祭ることは日本人の習慣なのです。
次回の更新は7月1日です。





![Vol.07 東京都~山梨県 多摩川編[ 後編 ]](/plaza/kiki/column/img/hm_column_0602.gif)




